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理想と現実のはざまで。自然な看取りの形とはなにか【看取りの報告書・BVさまのこと】

かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。

ありのままを受け入れることの難しさ

病院への看取りの報告書

いつもお世話になっております。BVさまの退院後について、ご報告させていただきます。
初回の訪問は退院日でした。広々とした家の畳の部屋に置かれたベッドに横たわるBVさまは、隣のリビングルームで家族が談笑する姿を見ながら、久しぶりに自宅へ戻れた安心感を穏やかに語られていました。一方で、ご家族は、入院前とは明らかに異なるBVさまのご様子に驚かれ、これまで介護の経験がないため、少し不安を感じておられました。ご家族には、これからの状況が厳しいことをお伝えし、毎日のように訪問し、日々変わるBVさまの状態に合わせて薬の調整などを行いました。退院当初は少量ながらお食事ができていましたが、徐々に誤嚥の可能性が見られるようになったため、内服薬や食事を控えることとなりました。その際、ご家族は「食べさせてあげたい」という希望と、「食べられない」という現実のギャップに苦しんでいる様子でしたが、これが「自然な看取り」であることをお伝えし、ご理解いただきました。早い段階から、ご家族には介護による疲れが見え始めていましたが、親族の方たちの協力もあり「最期まで自宅で過ごさせてあげたい」というお気持ちは揺るぎませんでした。
またBVさまは、毎回の診察で優しく手を挙げてご挨拶くださり、最期まで紳士的で穏やかな表情をされていました。そして退院から1週間ほどで、ご家族に見守られながら静かに永眠されました。ご家族は「最期の時間を一緒に過ごせて、自宅に戻れて本当によかった」とお話しされていました。BVさまをご紹介いただき、ありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

現代ではそのまま自然の摂理にしたがうことが難しい

医療は日々進化し、これまで救うことが難しかった命が助かり、多くの人々に喜びと希望をもたらしています。この進歩は大変素晴らしいものですが、その一方で、自然に亡くなることが難しくなっている現実もあります。治療を提供する側も受ける側も、治ることや回復を強く望み、さまざまな手段を尽くします。治療に工夫をこらすこと自体は決して悪いことではありませんが、時に自然の摂理や神の意志に逆らっているのではないかと考えることもあります。

現代の社会では「自然とは何か」を見失ってしまうこともあるかもしれません。何もしないことへの罪悪感や自責の念が生じることもあります。また、命に対する意思決定が、誰のためのものか、誰がその治療を望んでいるのかという点で、全員の意思が一致することは容易ではありません。

これは決して誰かを責めるものではなく、むしろ私たちが共に考え、向き合うべき大切な課題なのではないでしょうか。
そのために「縁起でもない話をしよう会」では、日常から「どのように生きたいか」「どんな最期を迎えたいか」「誰と一緒に過ごしたいか」など、自分の死生観や生きる価値観を話し合います。こうした話し合いを、自然に行うことができる社会を、私は目指したいと思います。

縁起でもない話をしよう会の具体的な内容は以下の記事でくわしく紹介しています。あわせてお読みください。

「縁起でもない話をしよう会・第33回東大阪プロジェクト」を開催しました

「失って初めて、その大切さに気づく」という言葉があるように、私たちは日々の中で多くのことを見逃してしまうことがあります。でも、そこで残念がるのではなく、今できる1%でも心を向けることで、世の中は少しずつでも変わっていくのではないかと期待しています。

自然な看取りがすべてではないと私は考えていますが、それでも自然に逆らう生き方を選ぶ背景や理由に興味があります。その選択には、本人の意思や家族の思いがどのように関わっているのか、その意思は共有されているのかを深く考えさせられます。

自然な命の誕生、そして自然な命の終わり──

私たちは、人生の終末期を迎えた方々が自分らしく穏やかな最期の時間を過ごせるよう、サポートとケアを目指しています。

医療や延命治療に依存せず、本人や家族の意向を尊重しながら、心身の苦痛を和らげ、できる限り安らかな時間を提供することを目標に、以下の5つのポイントを大切にしています。

  1. 本人の意思を尊重すること
    本人がどのように最期を迎えたいか、その意思を尊重し、それに基づいたケアを提供します。延命治療を望まない場合や、自宅での最期を希望する場合には、それに応じた支援を行います。
  2. 家族との連携
    看取りは、本人だけでなく家族にとっても重要なプロセスです。医療や介護の専門家が家族をサポートし、本人の意思を理解し支えることができるよう努めます。
  3. 全人的なケア
    身体的な痛みの緩和に加えて、精神的、感情的、社会的な側面にも配慮し、本人が心穏やかに過ごせる環境を整えます。
  4. 過度な医療介入の回避
    終末期においては、延命のための過度な医療介入を避け、自然なプロセスでの最期を尊重します。必要最小限の医療ケアと苦痛を和らげるための緩和ケアを中心に行います。
  5. 場所の選択
    病院だけでなく、自宅やホスピスなど、本人が望む場所での看取りが可能です。家族と過ごす時間を大切にしながら、安心感のある環境を提供します。

自然な看取りは、本人の尊厳を守り、最期の時間をできるだけ安らかに過ごすことを目指しています。これにより、本人やその家族が意義深い時間を共に過ごせるようサポートしています。

命あるものは例外なく、最期を迎えます。それは、どのような形が望ましいのか。答えは人それぞれに異なるものです。本人の意思を第一に考えながら、今後も思いが叶うようなケアを続けていきたいと思います。


【今週の東大阪プロジェクト】

東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます

下記の通り講演会を開催します(現地開催のみ)

【お知らせ・NPO法人つながりひろば講演会】

参加を申し込む

地域制限はありません、お気軽に申し込みください!

日時:2024年9月28日(土)14時〜16時(13時30分開場)
定員:大阪府立中央図書館ライティホール(大阪府東大阪市荒本北2-1)
近鉄けいはんな線「荒本駅」北西400m

対象:一般市民(どなたさまでも・地域制限はありません)
参加費:無料(要申込)

講演:
がん患者と家族のための訪問診療〜大切な人に思いを届けるために〜
医療法人綾正会かわべクリニック 看護師 川邉綾香/院長 川邉正和

この講演では、がん患者さんが自宅で安心して過ごせるよう、訪問診療の役割について説明します。患者さんや家族のニーズに応じたケアを行い、終末期のケアでは患者さんの尊厳を守りながら、信頼を築くことが重要です。また、患者さんや家族の想いをケアにどう反映させるかについて、事例を交えてお話しします。

※こちらからPDFが拡大表示されます

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