希望と現実が開いたときこそサポートしたい【看取りの報告書・BKさまのこと】
かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。
これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。
いつもお世話になっております。BKさまのケアについてご報告申し上げます。
退院された際、腹水貯留と下肢浮腫が続いており、苦しい症状が続いていました。その時点で、ご自身の体調変化と向き合うことが難しく、予後を受け入れられない様子が見受けられました。
医療スタッフからの質問に対し、時折厳しい言葉で「そんなこと聞いても仕方ないやろ」と答える場面もありましたが、それも倦怠感や不安からくるものであることはすぐ理解できました。
ADL(日常生活動作)が難しくなるにつれ、「もう自分ではできない、あかんな」と語り、奥さまに全てを託すようになりました。
腹水貯留や嘔吐のため、水分摂取が難しい中でも、BKさまは笑顔で大好きなお饅頭をリクエストし、それを家族が食べているのを眺め微笑んでおられました。また、自立して家を離れていた息子さまを呼び寄せ、「これからはお前がお母さんとお姉ちゃんを守ってくれよ」と伝えました。BKさまは自身の価値観の中で「強い父親」であることを大切にされていたのです。
そして退院から3週目を迎えた昼下がり、家族さまと愛犬に囲まれ、穏やかに永遠の眠りにつきました。在宅療養の期間中、ご本人はご自身の病気を受け入れるプロセスを進めつつも、大切な価値観を守りました。このご縁を通じて、私たちはご自身の心の強さとご家族に対する愛の深さを学びました。
BKさまのケアを支えてくださり、ご紹介いただき、心より感謝申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
「苦しみとは、希望と現実の開きである。」という考え方は、小澤竹俊先生の著書にも書かれています。
「まだまだ生きたい、諦めたくない、生きられる。あと1年、2年は…」という希望を持っていましたが、現実には予後が1ヶ月未満であると告知されています。このギャップが大きいほど、苦しみも深いものとなります。
しかし日数が経過しても、外見に変化はなく元気に過ごしていらっしゃる場合も少なくありません。がんの診断を受けた日から予後を考えながら生活しているご本人はもちろんご家族にも「もしかして回復しているのでは…」と期待するものです。
それでも再び医師からBSC(積極的な治療を行わず、緩和ケアをメインとする方針)という、2回目の重大な告知を受けます。それでもショックを受けると同時に、奇跡が起こるかもと淡い期待を抱く方もおられます。
希望と現実の開きが大きい場合、苦しみは身体的だけでなく精神的にもおよび、その緩和には時間がかかることが多いです。私たち支援する者は、苦しみをただ聴くことしかできません。ただ、私たちが逃げることは決して許されないと考えています。
こんなとき、看護師はどのように対応したらよいでしょうか?
ある患者さんが「私が今、緩和ケア科に行く必要ありますか?そんなん、お世話になるのは1~2年後かもしれないのに、今からですか?大丈夫なものですか?そもそもうちの家系にがんで亡くなった人はいません。だから私ががんで死ぬなんて不思議で仕方がありません…」と質問されたら。
まず、患者さんの質問に真摯に向き合い、患者さんの思いを尊重することが大切だと思います。そのためにも、患者さんが主治医からどのような説明を受け、どのように理解しているかを確認するプロセスが大切です。
次に主治医から得た情報と現状を改めて照らし合わせ、患者さん自身が自己理解するお手伝いを行います。また、現状の苦しみに対し解決できることがあれば、症状緩和のための治療計画やケアの重要性について説明します。
私は毎回訪問するたびに、患者さんの不安や疑問に対する理解者となり、聴き続けることに努めます。
患者さん、家族さんとともに希望を持つことは大切です。ただしたとえ精神的なショックをなかなか克服できなくても、「支え」に光を当てたケアを行うことで、患者さん自身が穏やかな気持ちに気付けるようになるのです。患者さんのもつレジリエンスの力を信じ続けて、患者さんのタイミングで立ち上がるアシストができるように、私たちは見守るケアの重要性を理解する必要があります。
結果的に最後の診察となったとき、奥様はこう仰っていました。「主治医から『(予後が)3月末だ』と言われたとき、それでも元気なお父さんを見ていたら、本当かな?と思っていました。しかし、その後川邉先生から予後の話を改めてお聞きして、息子に伝えたら、すぐに帰ってきてくれたのです」
「お父さんが息子に向かって『これからはお前がお母さんとお姉ちゃんを守ってくれよ』と言って、息子も「わかった、俺が守る」と約束してくれました。本当に最期まで強い夫でした。ありがとうございました」
このように、患者さんにとっての「希望と現実の開き」が時間をかけて小さくなったとき、苦しみよりも穏やかさに気づいたとき、患者さんはレジリエンスを発揮し、自分の役割を果たそうとします。私は、こうした姿を多く見てきました。
そのためには、症状緩和はもちろんのこと、苦しみを丁寧に聴き続け、レジリエンスを信じて待ち、必要なときに必要なアシストをできるようなケアを続けていきたいのです。
【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます
>ぜひご参加ください<<
【お知らせ・地域連携緩和ケア講演会】
以下の通り講演会を開催します(ハイブリッド形式)。
現地での懇親会もあります(参加費無料 先着130名)ので、ぜひ奮ってご参加ください。
【地域連携・緩和ケア講演会(第32回東大阪プロジェクト)】
今回のテーマは「東大阪発!その人らしい豊かな人生を支える地域をつくる」
参加される方のお住まいに地域の制限はありませんので、お気軽に申し込みください!
日時:令和5年11月4日(土)17時~20時(16時30分より入室可)
定員:東大阪市文化創造館 現地130名・オンライン500名
対象:どなたさまでも(地域の制限はありません)
参加費:無料
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