早期からケアをすることの大切さ【看取りの報告書・BJさまのこと】
かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。
これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。
いつもお世話になっております。
貴院を退院されたBJさまのご報告をさせていただきます。最初はオブジーボ投薬日に通院することを目標にされていましたが、日々低下する体力のなかで、通院できないことを静かに受容された様子でした。
今回の療養を機に同居された娘さまは、集中治療室の専門看護師教育課程を修了されたばかりでした。娘さまはお母さまのケアを通じて、尊厳と価値観に対する深い理解を得る中で、様々な感情と葛藤を抱えていらっしゃいました。
日々の訪問の中で、娘さまの思いや悩みをお聞きしながら、BJさまが心地よく過ごせるように症状のコントロールに努めました。大切な高校生のお孫さまも、いつもそばにいて、最後の瞬間まで優しく寄り添いました。そして、意識が薄れる直前に、娘さまに遺産に関わる手続きを伝え、退院からわずか12日後の13時7分、家族に見守られながら、穏やかな眠りにつかれました。
BJさまの在宅療養は、始めは治療の希望を胸に抱えながら始まりましたが、最終的にはご家族皆さまが納得できる形で看取りが行われたこと考えております。これからも、BJさまの思いを胸に、皆様のご支援とご協力のもと、大切な患者様に温かなケアを提供してまいります。
この度はご紹介いただきありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
前回の看取りの報告書(後悔しないように生ききった【BIさまのこと】)では、残された時間について触れました。「なぜ時間の重要性」とケアが関係しているのか、今回はもう一段階、考察を深めてみたいと思います。
以前から、在宅訪問診療の開始時期や治療の継続期間といった課題に時間の要因が関与してきました。
最後まで治療を続けることが、残された時間にどのような影響を与えるのかを考えることは、時間の適切な活用を考えることと同じくらい重要です。
人生にはやり直しの機会(時間)は与えられません。在宅訪問診療においては、治療期間や方針、患者さんと家族の願い、医療的な判断、過ごし方など、多くの要素が時間と密接に結びついています。
BJさまと、私たちかわべクリニックの関わりは、結果的にわずか12日間でした。もっと早くケアを開始できていたらと思わずにはいられません。
そもそも早期の緩和ケアによって生存期間を延ばす可能性がある1)ことはすでに指摘されています。さらに早い段階からのグリーフケアは立ち直りを助ける役割を果たすことがあります。ただし、そのためには時間が必要であり、患者さんと家族によるケアが生前からの悲嘆のプロセスを大きく変化させることもあるのです。
退院当初、ご本人はその後も外来治療を希望していましたが、現実的にそれだけの体力は残されていませんでした。お母さまの希望をかなえることが難しいと、看護師である娘さんはすでに理解されていましたが、母が気を落とさないようにと「外来通院ができたら治療しましょう」と医師に依頼しました。実際には適切なサポート方法は見つからず、安易な励ましをすることで逆にお母さまの気持ちを沈めてしまうだけになりかねませんでした。
娘さんには仕事上、病院での看取りの経験は多くありました。しかし自宅で看取るという未知の経験に対しては不安が募ります。集中治療室では、人々を救命している自分が、母に対して何もできない無力さから、自己嫌悪に陥ってしまったのです。
このようにご家族の行動や態度から予期される悲嘆に対して適切な支援をできれば、大切なご家族を亡くした後の悲嘆の軽減に繋がります。そこで私は看護師としてではなく、BJさんの娘として、在宅ケアの事実と心構えについて丁寧にご説明しました。
その結果、娘さんからは次のような言葉が返ってきました。
「母とこんなに一緒に過ごすことは、高校生以来かもしれません。母の顔を見るだけで安心します。積極的な治療も大切ですが、いつかは終わりが訪れます。終わりのそのとき、私はどこで誰と過ごしたいか、母を通じて教えられた気がします。病院で過ごしていたなら、遺産整理の時間も持つ余裕はなかったです。今でも何かできることはないか、辛くないかと不安はありますが、日々の変化を通じて時間の尊さを感じられるようになりました」
このように、見方を変えれば普段感じることのない価値を日常の中で見つけ、共に過ごす喜びを実感できるのです。とはいえ当事者だけで気づくことは困難で、私たちのような第三者だからこそ、気付きのきっかけになれることもあるのだと思います。
ご本人と、大切なご家族が自宅で過ごすからこそ、限られた時間を特別な思い出として大切に共有できます。そして家族、大切な人によるケアが、お互いにとって不可欠なものであると感じることで絆を再確認し、安心感や達成感を得られるのだと思います。
これらの経験は、やがて悲嘆(グリーフ)の過程を辿る中で、残された家族にとって尊い助けや拠りどころとなるのだと信じています。
本来、医療者と患者さんやご家族との間の信頼関係を構築するのに時間の長短は関係ありません。付き合いが長ければ、信頼を得られるなどというものではないからです。
ただし、お別れを意識する時間はしっかりと確保される方がよいと思いませんか。あまりに短時間だと、絆を感じるゆとりさえありません。
私たちは、家族の苦しみをキャッチする一方で、患者さんと家族との交流によって、お互いに穏やかさが生まれるような機会を積極的につくり出すことを大切にしたいと考えています。そのためには時間も必要です。
もちろん最期の時間を過ごすご本人のために。そして、心に空いた穴と向き合いつつ、前へと歩み始めるご家族たちのために。
1)「転移性非小細胞肺癌患者に対する早期緩和ケア」より(2010年、医学雑誌「New England Journal of Medicine」)
【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます
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(先着90名となっています、お早めに!)
話題提供:
ビリーブメントカンファレンスの取り組み
講師:鉾立優作さん
後半は、話題提供を受けての語り合いの時間です。
5名程度のグループとなり、自由に縁起でもない話をしていただけます。
日時:令和5年8月24日(木)
18時30分から20時
場所:オンライン(Zoom)
定員:90名程度
参加費:無料
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