取材・雑誌掲載(「TKC医業経営情報」)されました
先日、「多職種連携で患者さんに穏やかさをもたらす 在宅医療における栄養ケアの重要性」をテーマに、病院・診療所の経営改善と新規開業の支援活動の一環として、月刊誌「TKC医業経営情報」さまより取材を受けました。
<注>
TKC全国会、TKC医業・会計システム研究会は、病医院の会計・税務に精通した約1,700名の会員により構成され、現在、全国約2万件の病院・診療所の健全経営を積極的に支援しておられます。
(詳細についてはホームページをご参照ください。https://www.tkc.jp/igyou)
なお、当クリニックの顧問会計事務所はTKC会員会計事務所ではありません。
せっかくなので、ブログでも共有させていただきます。
患者と家族の心に寄り添う在宅医療 「栄養ケア」が持つ本当の意味
在宅医療を専門に手がける、かわべクリニック(東大阪市)。医師ではなく看護師が主体となることで、多職種連携の促進を図っている。在宅訪問栄養管理士による「栄養ケア」では、単に患者の栄養を管理するだけでなく、多面的に患者の療養生活と家族をサポートする。川邉正和院長と看護師の川邉綾香氏に話をうかがった。
病院勤務時代に在宅医療の必要性を強く認識 看護師と医師が組んで開業
──貴院は2015年に開業されたそうですが、どのような想い、経緯があったのでしょうか。
院長 開業を決意したのは、私の想いと、パートナーである綾香さんの想いが重なった結果です。
開業前に勤務していた大阪赤十字病院の呼吸器外科では、がんの手術後に再発した患者さんの抗がん剤治療や疼痛緩和などを行っていました。そのなかで、ある出会いがありました。私が手術を行った患者さんが、再発で抗がん剤治療を行い、数年は効果があったのですが、抗がん剤の効果がなくなり、骨に転移。痛みを注射で抑えながら病院で過ごしていました。
ある日、いつもどおり彼の病室にうかがったときに、彼が痛みも落ち着いているし、最期は家で過ごしたいと話されたのです。私の見立てでは彼の残り時間は2週間ほどだったので、急いで病院の地域連携室に在宅支援診療所を探してもらいました。しかし、病院で使っていた痛み止めの注射を扱える開業医が見つからないなどの理由で、結局、退院できたのはそれから10日ほど過ぎた頃。その間にがんはさらに進行し、自分で動くことが難しい状態になっていた。そして、在宅に戻られて3日後に永眠されたのです。
そのときに思ったのが、もっと早く希望どおりに自宅に帰ることはできなかったのかということです。同時に、私が地域の在宅医になればよいのではないかと思い浮かびました。そのいきさつをパートナーの綾香さんに話したところ、彼女も同じ頃、在宅について考えることがあったそうです。
綾香氏 私も大阪赤十字病院に10年間勤め、最初の6年間は内科と外科の混合病棟に勤務していました。そこではがんの診断から、手術や抗がん剤治療、放射線治療などの繰り返し、最期はお看取りまでといった、一連の流れを行っていました。そうしたなかで緩和ケアに興味を持ち始めた頃に、救急外来に異動になりました。そこでは心のケアと言うよりも、1分1秒を争い、命を救うことが第一でした。
一方で、なかには終末期の患者さんも運ばれて来る。カルテにはがん末期と書かれ、看取りが近いけれども少し過度とも思える救命に近い形の処置をせざるを得ない。これはとても心苦しいことです。実際、ご家族に話を聞くと、本当は家に居たかったけれど、容体が急変した際にかかりつけの医師に電話がつながらず、怖くて救急車を呼んだというのです。
そういう救急車を呼ばざるを得なかった背景などを知ったときに、在宅でできることは何かないのかなと、モヤモヤとした気持ちになりました。そういうことが続いたことから、川邉先生に相談したところ、私たちが地域に出れば何かできることがあるはずだということで想いが一致し、開業することになりました。
──現在の患者さんの層、患者数を教えてください。
院長 開業当初はがん患者さんがほとんどでしたが、神経難病の方や、認知症で最期を自宅で過ごしたい方などが増え、今はがんの方は半数ほどです。ケアマネジャーの方からさまざまな患者さんを紹介していただくようになった結果です。ほぼすべてが居宅の患者さんです。施設の患者さんも、自宅療養から施設に移られた患者さんです。
患者数は、今は80人程度を診ています。年間120〜130人が亡くなられ、そのうち在宅での看取りは90〜100人です。在宅での看取りの数は多くなっていますが、私は必ずしも自宅での看取りが一番とは思っていません。病院の緩和ケア病棟で過ごしたいと希望される方も一定数いらっしゃる。本人とご家族が望む場所でよいと思っています。私たちの医療では、「主語」は必ず患者さん、かつご家族であるという考えです。
なお、スタッフは、医師は私以外に非常勤が3人います。看護師は常勤が2人、非常勤が3人の計5人。地域の訪問看護ステーションとも連携しています。
看護師中心のほうがメリットは大きい 栄養ケアで食に対する苦しみを穏やかに
──貴院は医師ではなく看護師が主体となって在宅医療を提供されているそうですが、どのような狙いがあるのですか。
院長 患者さんと家族が「主語」であるという観点から見ると、患者さんと家族が中心にいて、その周りに多職種がそれぞれの役割で関わるのが理想的です。そのときに、医療と介護をバランスよく担当できるのは誰かというと、間違いなく看護師です。ケアマネやヘルパーとの距離も近い。訪問看護ステーションとのやりとりもスムーズにできます。
経営的視点で見ても、看護師は医療保険と介護保険の両方がとれる唯一の職種です。また、看護師が主体となることで、医師は医療に専念でき、診られる患者さんの数が増える。感覚としては、少なくとも1.5倍くらいの患者数は診られるようになると思います。
そうして多職種連携がうまく機能すると、患者さんもご家族も喜ばれ、ご家族が別の患者さんを紹介してくれることにもつながります。実際、当院では病院からの紹介よりも患者さん家族からの紹介のほうが多いです。そういう好循環が生まれています。看護師中心の体制にすることにはメリットしかないでのす。
綾香氏 患者さんご家族がご近所さんを紹介してくださり、そのご近所さんがまた別の方を紹介してくださることや、お母さんをお看取りして今度はお父さんの在宅もお願いしますというケースが増えています。
院長 そうしたことは、すごく励みになります。看取りに関して直接的な評価をいただかなくても、ポジティブなフィードバックとして受け取ることができ、がんばろうという気持ちになれます。
──貴院では「栄養ケア」にも力を入れておられます。注力するきっかけは何かあったのでしょうか。
院長 私が食べることが好きだというのがあり、人生の最期まで食べられる方法はないかと考えたのがきっかけです。食・栄養のプロである管理栄養士が私たちのチームに参加してくれれば、在宅医療の質がより向上するのではないかと思ったのです。
綾香氏 人生の最終段階の患者さんは、トイレに行けなくなる、お風呂に入れなくなるなど、日々いろいろなことができなくなっていきます。食べたいのに食べられなくなるというのもその1つです。食べたいという気持ちが強い人ほど、食に対する苦しみは大きくなる。少しでもその苦しみを穏やかなものにできないかという視点を持つだけでも、その方の残された人生が変わってくるのではないかと思っています。
私たちの「栄養ケア」は、単に栄養を管理し、食べられるものを増やすというものではありません。患者さんは本来どういうものが好きだったのか、なぜ食に対してこだわるのか、といった物語を聞くことが支えにつながるという考えです。たとえば、「食べることが好きになったのは、奥さんの手料理があったから」という話を聞くだけで、夫を介護する奥さんも穏やかな気持ちになります。また、「今の状況でも、食べたいときに食べたいものを食べて構いませんよ」とお伝えするだけで、家族の疲れがとれることもある。家族としては、どうにかして食べさせなければとか、栄養を考えなければとか、がんじがらめになっているので、そこを「そんなにがんばらなくても大丈夫」と伝えてあげる役割を管理栄養士は担います。栄養に関して何かをするのではなく、栄養をテーマに患者さんの苦しみ、物語を聞ける人材を育てることが、私たちの栄養における穏やかなケアの大きなテーマになっています。
──具体的な事例があれば教えていただけますか。
綾香氏 83歳の肺がんの末期の方の例ですが、予後は3~4か月くらいでした。私たちが介入したとき、その半年前に奥さんを亡くされ1人暮らしでした。魚の卸売市場で働いていた方で、かつては余った魚で鍋を作ったり、仲間にふるまったりしていたほど、料理好きだったとのことでした。奥さんが病気になったときも、手料理を作って食べさせたていたそうです。
しかし、奥さんが亡くなり1人になって、自分もがんになってしまい、「台所に立ってもむなしいだけだ」と思うようになってしまった。そんなことをぽつりぽつりと話されていました。実際、そのとき食べていたものは、朝はおにぎり、昼は奥さんの仏壇に供える物の余り、夜は栄養補助食品といった感じで、毎日が同じような食事でした。そこで、管理栄養士に入ってもらい、どんな料理が好きだったのか、奥さんの得意料理は何だったのかなど、いろいろ話を聞いていくと、「もう一度台所に立ってみようかな」と思うようになり、管理栄養士と一緒にごはんを作るようになったのです。
その後しばらくしてから、私たちが訪問すると、冷蔵庫からタッパーを出して、「こんなの作ったから食べてみて」と。「先生たちの分も作ったから、持って帰って食べてみてよ」とおっしゃったのです。そのときには予後1か月くらいだったので、だいぶ痩せられていましたが、彼は自分が食べるためではなく、私たちに食べる喜びを味わってほしいとの思いで料理を作られた。食に対する彼の喜びは、誰かのために作って食べてもらうこと、喜んでもらうことだったわけです。それが彼にとって最期まで生きる支えとなりました。後日、「おいしかったですよ」と伝えると、満面の笑み。そして、その1週間後くらいに旅立たれました。
私たちにとって、そういうことが食に関しての生きる支え、穏やかな支えではないかと思っています。単にヘルパーを入れて料理を作ってもらうといったことではなく、患者さんの残された力で何ができるのかという視点で見る。そのためには患者さんが何をしたいのかを聞き取ることが大事になってくると思います。
院長 私たちが診療でうかがうのは、1日24時間のうち30分程度です。そこで何かを変えようとするのではなく、残りの23時間30分の行動を変える、行動変容を促すことが大事なのです。看護師や管理栄養士には、そこを意識してもらうようお願いしています。
ミーティングの様子。関わるスタッフ全員で理念や考え方を共有する
管理栄養士にもクリニックの理念を共有 ケアマネから高評価、付加価値に
──そうすると管理栄養士にも貴院の理念、考え方を共有してもらうことが大切になりますね。
院長 そこは大事な点であり、難しいところでもあります。まず、彼らは医療者ではないので、そこに大きなギャップがあると感じています。たとえば、管理栄養士のよい点であり、欠点でもありますが、患者さんと接する際、豊富な知識を伝えようと一方通行の説明をしがちです。この栄養素はこうで、こういう役割があるといった説明に終始してしまうのです。その点については、まずは全人的に患者さんの話を聞くことから一緒にやりませんかという話をしています。自分が話すのではなく、一歩引き、30分あれば、15分は患者さんの話を聞いてみませんかと。そういう話をすると、管理栄養士の想いと私たちの想いとのギャップに気づいてもらえることが多いように感じます。
綾香氏管理栄養士さんも患者さんのことを知りたいという気持ちはありますが、医療的なことは知らないということもあるので難しいところです。ですから、まずは看護師が管理栄養士のそういう苦しみを聞く。そして看護師から患者さんの状態について説明した上で、適切な対応としてどんな工夫ができるのか、あくまでも主語は患者さんで、患者さんに合う工夫を考えてほしいと伝え、一緒に検討するようにしています。私たち看護師が後ろにいるから、安心して患者さんに声をかけてみてというスタンスです。
──管理栄養士が介入する患者さんはどのように決めるのですか。
院長 コロナ禍においては、訪問する人数を制限する必要があるなど、状況が変わっていましたが、基本的にはすべての患者さんについて検討しています。ただ、実際に入っているのは全体の1割程度です。入れられない理由の多くは金銭的な問題です。管理栄養士が入れば患者さんの状態が目に見えて変化するというわけではないので、ご家族も費用面で迷われます。
綾香氏 がん末期の方の場合、在宅療養の期間が短く、医療の展開が早いので、管理栄養士が介入するのは難しいケースも少なくありません。逆に慢性期で血圧が高いとか、中長期的に行動変容が必要だと思われる患者さんには管理栄養士が関わりやすい。入退院を繰り返さないように、食事や行動変容を促します。
──管理栄養士を入れることで経営的なメリットはありますか。
院長 収益的にはトントンです。地域の管理栄養士の団体に外部委託しており、必要に応じて入ってもらうので、特にプラスにもマイナスにもなりません。
管理栄養士を介入させることで患者数が増えるかというと、特段の影響はないですが、私たちのチームのメンバーに管理栄養士がいることで、ケアマネなどからは喜ばれています。かわべクリニックに頼めば、どの職種ともつながれるという評価は得られています。歯科医師や歯科衛生士、薬剤師と連携するのと同じ意味で、付加価値になるのは間違いないと思います。
「東大阪プロジェクト」で多職種連携推進 今後は市民への啓発活動にも取り組む
──貴院は「東大阪プロジェクト」という活動をされていますが、これはどういうものですか。
院長 私たちは東大阪市を中心とした地域の在宅医療の普及、促進を目指しています。そのためには、地域の多職種の方々と本当の意味で顔の見える関係性を築かなければなりません。そのために立ち上げたのが「東大阪プロジェクト」です。
活動の中心の1つが勉強会です。在宅医療に関わる人たちの知識の格差是正とレベルアップが目的です。医師、看護師、ケアマネ、薬剤師など、それぞれの職種の勉強会に、職種に関係なく誰でも参加できる仕組みにしています。それにより職種間の知識の差を小さくし、それぞれが本当にフラットな立場で関係性を構築できるのではないかと思っています。コロナ禍で勉強会をオンラインで開くようになり、当初は東大阪だけで50~100人くらいの参加だったのが、今は全国から400~500人くらいが参加しています。
プロジェクトのコアメンバーも増えていて、最初は6人で始めたのが、今は30人くらいになっています。代表は司法書士の先生で、看護師、司法書士、社会福祉士、ケアマネ、ヘルパー、看取り士、MR、葬儀会社、市議会議員、コンサル、病院院長など、地域包括ケアシステムに関わるさまざまな職種の方々です。人数が増えると意思統一も課題になりますが、コアメンバーだけの勉強会を今年2月から毎月開き、30人のベクトルを合わせています。いろいろと苦労もありますが、力を入れて取り組んでいます。
──今後の展望をお聞かせいただけますか。
院長 これまでは主に医療・介護職を対象に啓発活動をしてきました。しかし、これでは閉ざされた社会になるので、今後は市民を対象に、自宅で穏やかに過ごすことができる、地域包括ケアシステムというものがあることを知ってもらう啓発活動をしていきたいと思っています。身近なところに在宅医、訪問看護・介護の専門家がいることを知ってもらい、気軽に相談してもらえるようにしたい。医師会や行政の方々とも一緒に取り組んでいければと考えています。
在宅医療、地域包括ケアシステムに関して、このように興味・関心を持ち、そして取材、雑誌掲載していただけたことに、感謝しかありません。
今年度は、医療介護福祉職だけでなく、職種をさらに広げ、リアルに顔の見える関係を築く一年としていきます。
東大阪プロジェクトの想いが多くの方に届くことを願っています。
【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます
>>今週ご紹介する動画<<
【地域連携】東大阪プロジェクト 真の地域包括ケアシステムを目指して
https://www.youtube.com/watch?v=c9_CFMgTEbE
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