【看取りの報告書】ALさまのこと
クリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。
今までかわべクリニックがお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出と共にご紹介していきたいと思います。
いつもお世話になっております。
ALさまについてご報告させていただきます。
以前より「最期を看取るなら自宅で」とお考えであった娘さまより、在宅診療のお問い合わせがあり、クリニックに面談に来られました。
そして、急ではあったもの翌々日には退院の運びとなり、同日より訪問診療が開始となりました。
ALさまの自宅に戻っての第一声は「家落ち着く~。ビール!」
娘さまもその大きな発声に喜び、勢いよくポカリスエットを飲む元気な姿に驚かれていました。
娘さまのお気持ちとしては、「たとえ誤嚥性肺炎で亡くなったとしても、母が希望するものを食べさせてあげたい」。
その願いを叶えるべく歯科口腔の往診介入を依頼し、嚥下評価を行い、トロミ付きの高カロリーゼリーから摂取開始。
食べる喜びを味わってもらいつつも、誤嚥のリスクは高いこと、栄養状態も低く感染に闘うだけの体力はないことを説明しました。
やがて食欲が低下し、経口摂取量および尿量が減少。
ご家族に状態を説明した上で、このまま自然な形でALさまが口にしたいものを摂取することとしました。
亡くなられる前日には友人が着物姿で来られ、「ワンダフル」とおっしゃったALさま。
部屋の中に笑い声が絶えなかったと、娘さまよりお伺いしました。
そして、ご家族さまに見守られる中、安らかに永眠されました。
娘さまより「先に旅立った父の月命日と同じ日、同じ時間でした。二人は今頃再会しているのでしょうね」とお聞きし、ご夫婦の愛情・家族の愛を感じることができました。
この度は、迅速にご対応いただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。
[ケアを振り返って]
今回は、ご家族さまがクリニックと出会い、ALさまを自宅に連れて帰り、お看取りに至るまでの過程について少し振り返りたいと思います。
ALさまの娘さまからクリニックにお電話をいただいた時期は、ちょうどコロナウイルス感染症が拡大しつつある時期。
病院では徐々に面会制限が始まり、人々に緊張感が出てきた頃でした。
誤嚥性肺炎で入院したALさまは、入院中は絶飲食で持続点滴。
病院のスタッフが完全防備でケアを行っているため、認知症のALさまは怖く不安な毎日を過ごしました。
当初は点滴を自己抜針したり、大きな声を上げたりしていましたが、徐々に活気がなくなり、寝ている時間が長くなったALさま。
週に一度だけ面会が許されていたため、娘さまが会いに行くと、表情も乏しく寂しそうな目をしている。
最期に一緒に過ごせないなら、自宅に連れて帰りたい。
そう思った娘さまは、インターネットで「東大阪、訪問診療」と検索し、かわべクリニックにご連絡くださいました。
その翌日、娘さまとクリニックで面談。
ここで話し合う内容は、今までも何度もお伝えしている「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」です。
●参加者:
長女、次女、クリニック(医師川邉、看護師川邉)
●内容:
・患者本人の気がかりや意向
長女より、今は食べないし、しゃべれなくなっているが、少し前は「ビール飲みたい!」と言っていた。
出来たら、食べさせてあげたい。
・患者の価値観や目標
長女より、食べる事が好きでビールもよく飲んでいた。入院してからどんどん悪くなって、今では寝たきり。
先生からも悪くなって、先は長くないと説明を受けた。だったら、自宅で看取りたいと思い、かわべクリニックに連絡した。
・病状や予後の理解
医師・看護師より、診療情報提供書から推測すると、今のALさまは体位変換が必要な状態で、呼びかけには反応するが発語はない。
末梢持続点滴および2回/日抗生剤点滴投与、吸痰処置が4-5回/日必要。
炎症反応は高い状態で、今後も肺炎を繰り返し、治癒しにくい状態であると判断される。
現在の点滴は栄養の観点から行われているのではなく、あくまで水分補給程度である。
その点滴により、分泌物増え痰や浮腫みの原因にもなる。
・治療や療養に関する意向や選好、その提供体制
退院するにあたり、ご家族が気にされている栄養面であるが、栄養を入れるという観点からすると現在の点滴には栄養はないといっても過言ではない。
栄養を摂るには経口、胃瘻、高カロリー輸液の3つが挙げられる。
現状の状態では経口摂取は無理であり、胃瘻か高カロリー輸液という選択肢になる。
ただ、これらがALさまに適しているかは今後考えていかなければならないことであろう。
ご家族で十分に話し合っていただき、希望する形を私たちは支援していく。
当クリニックとしては、まずは自宅で過ごしたいという希望を叶える為にも退院してきていただき、ALさまの持っている力を信じて、過度な治療はせず、自然にどこまで回復されるのかを診て行きたい。
初回訪問時にはALさまより、「初めまして、こんにちは!ありがとうございます」と、驚くほどの大きな声で挨拶していただきました。
娘さまからは、「自宅に戻ったら『落ち着く~。ビール』と叫んでました。先生が来られる前に、ポカリスエットを1本飲んでしまいました。むせていないように思うのですが、どうですか?焦ったらダメなのですよね。」と。
これが家の力です。
希望されていた訪問入浴も行い、アイスクリームなどの経口摂取も楽しまれてはいたものの、十分な量とは言い難く、退院して3週間が経過した頃より、眠る時間が長くなるなど、お迎えが近くなっていきました。
娘さまと、自宅に帰って来てからの2週間を振り返りました。
「自宅の空気を吸い、希望していたビールも飲み、友人にも会え、娘や孫に囲まれた賑やかな我が家で穏やかな時間を過ごしている。このまま自然な旅立ちがいいです。」と娘さまの言葉。
娘さまの選ばれた選択は間違っていません。
一緒にALさまにとって何がよいのかを考える。これこそがACPなのです。
最期まで後悔しないケアをご家族とともに考えていくことが私たちの使命であると、私は考えます。
ちなみに、点滴もせず、吸引もせず、ALさまは最期まで穏やかでした。
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