【看取りの報告書】ABさまのこと
クリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。
今までかわべクリニックがお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出と共にご紹介していきたいと思います。
[看取りの報告書]
いつもお世話になっております。
貴院を退院されましたABさまについてご報告させていただきます。
初回訪問時、ご自宅のベッドが簡易ベッドであったため、現状および今後の事を予測して介護用ベッド、ケアマネージャーの介入をご提案しました。
しかし、「そのうちよくなるから、そっとしておいてほしい」「入院中に吐血をして、絶食をしたから痩せてしまった。また、太ってくるはず」と、現実を受け止めとめたくないような発言がみられました。
息苦しさはあるが、『息苦しい』と言ったら負け。
『苦しい』と言ったら、酸素を付けないといけないかもしれない…。
何よりも悪くなっているとは思いたくない。
ABさまにとっては、私たちに「息苦しくないか」と聞かれることが苦痛なのではないのかと判断し、診察の際には奥さまを通して状態の把握に努めました。
またABさまは、月に一度の外来の帰り道で近鉄百貨店に寄ることが楽しみでもありました。
しかし秋になり、ADLが一段と低下。
ABさまより外来受診の延期のお申し出があったため、薬物調整を行い、ナルサス2㎎、デカドロン2㎎を開始しました。
すると少しは食事量も増え、呼吸困難も軽減。
診察の際の表情も良く、楽しげにお話しされていました。
しかし、年末になるとさらに病状は進行し、体動時の呼吸促迫も著明となりました。
そのような状況でも酸素導入、ベッド交換は拒否。
奥さまの介護疲れもピークに達し、入院する話も出ました。
けれど、奥さまは「お父さんは絶対嫌って言うわ」。
そこで私たちの訪問回数を増やし、ヘルパーの導入を行い、何とか自宅での療養を継続することができました。
そしてある日、奥さまがテレビ鑑賞中にふと、ABさまの顔を見ると、呼吸が止まっていることに気付きクリニックに連絡。
年が明けて2週間後、ABさまは安らかに永眠されました。
奥さまは、「今朝までお茶も飲んでいたし、お茶の置く位置を注意された。いろいろと頑固で大変やったけど、こうやって家で看られてよかったわ」とおっしゃっていました。
ご紹介ありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。
[ケアを振り返って]
ABさまはとにかくシャイな方で、先生とは比較的目を合わせて話すことができましたが、看護師が血圧測定している時も外の景色を見ながら…。
でも値は気になるので「どうだった?」と聞かれるような方でした。
興味のある話は時代劇。
TVでも古い時代劇が流れていたので、私は何も言えず…。
それでも奥様は「あなた達世代にはさっぱりでしょ。私でさえわからないもの。夫の世界だから気にしなくていいよ」と言ってくださいました。
患者さまの個性をどのように捉えるのか。
表現が苦手な方、上手く伝えられない方、色々な性格の方がおられます。
「シャイな患者さまとのコミュニケーション克服術」でも書いたように、患者さまが私達に聴いてほしいと思っていること、タイミングは異なります。
どのタイミングで誰に、心を開くのか、どうしたら心を開いてもらえるのか、何がポイントなのかはわかりません。
でもあきらめず、最終的に患者さまにとって「わかってくれる人」になれればよいのです。
ABさまの場合は、直接ではなく、奥さまと私達が話している姿を見ていただいくことで安心感をご提供できました。
だんだんと表情が穏やかになったABさま。
毎回、多くは語らない彼から最後にいただく「今日もありがとう」は、とても支えられた言葉でした。
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