「第2回 市立柏原病院 地域連携緩和ケアシンポジウム」講演概要
こんにちは。医師の川邉正和です。
3月14日に「第2回 市立柏原病院 地域連携緩和ケアシンポジウム」が開催されました。
私はこのイベントで、基調講演をさせていただきました。
この講演内容を、ダイジェスト版ではありますが、みなさまにもお伝えさせてください。
(1)これからの社会
人口動態から多死時代が来ることはご存知かと思います。
特に団塊の世代がすべて後期高齢者を迎える2025年には、年間に150万人が亡くなると推定されています。
今までは、病院で最期を迎えていた人たちが、病院で最期を迎えることが難しい時代が来ることを想定し、地域包括ケアシステムが構築されています。
重度な要介護状態となっても、「住み慣れた地域」で、「自分らしい」暮らしを、「人生の最後まで」続けることを実現。
そして、地域で人生の最終段階(エンドオブライフ)をケアするシステムです。
このシステムを支えるため、「在宅をささえるため」、かわべクリニックの取り組みをご紹介させていただきます。
(2)「在宅を支えるため」かわべクリニックの取り組み
かわべクリニックは、病院勤務時代に経験した入院患者さまの「最期は自宅で」「自宅に帰りたいと思った時が退院するとき」という希望をかなえるため、少しでも役立てればという思いがきっかけとなり開院いたしました。
現在、ご自宅にて年間約60名の患者さまをお看取りさせていただいております。
1:看取りの報告書
在宅看護師が「看取りの報告書」(最期の生活のご様子)を作成し、最期まで病院と連携を図ることで遺族へのグリーフケアを行なっております。
そして、在宅看護師は、自らの看護の振り返りや死生観を見つめ直す重要な機会となり、退院支援に関わる病院看護師、医療ソーシャルワーカー(MSW)は、退院後の療養生活を見据えたアセスメントの視点を持てるようになります。
看取りの報告書により、病院に在宅療養の安心感を提供することで、病院と顔の見える関係性が更に強化され、患者さまにも安心感を提供でき、自宅での看取りが可能となります。
2:グリーフカード
ターミナルケアを受けていた患者の死後は、そのご家族に行われるグリーフケアに移行します。
グリーフケアは家族の自立支援を含め、QOLの向上と確立を促すために行っています。
グリーフカードには、「これでなければ」と定められている書式や例文があるわけではありません。
私どもでは、悲嘆のプロセスによる心の動きに添いながら、孤独感を持たずに、心の再起動を促せるような内容の書き方となるよう、心がけております。
ご家族を亡くされた方がはじめに感じる喪失感など、心の打撃を思いやる内容がふさわしく、また罪の意識や怒りなどの迷走する意識を持ってしまうご遺族の心を、あたたかく包み込むような書き方が必要となります。
自分自身が喪失感などの「悲嘆」を感じたときに、何を心に思い浮かべるかを考えることによって、グリーフカードの内容が決まってきます。
3:緩和ケア研修会
緩和医療学会(PEACE)推奨のモジュールを用いて、3か月毎に研修会を開催しています。
研修会では「消化器症状」「せん妄」などのテーマに即した講演および事例検討を行ない、参加者は、医師だけではなく、看護師、ケアマネージャーなど多職種にわたり、毎回50名以上の参加となっております。
事例検討の発表を医師ではなく、他の職種者が行なうことで、発表の機会を付与できていると考えております。
4:在宅訪問管理栄養士の採用
「終末期医療において、食事を心のケアに」を目標に、在宅訪問管理栄養士を採用しております。
在宅で最期を迎える方も増えつつある現在、人生の最終段階を迎えた人に、管理栄養士が食べるサポートをすることで、最期まで穏やかに過ごせるのではないかと考えています。
そして、栄養士のこのような活動を、多職種に広めていく必要があるとも考えています。
本年3月9日には、大阪府栄養士会研究発表会で同内容について発表を行ないました。
5:患者会での講演
成人病センター(現・大阪国際がんセンター)の呼びかけで発足された口腔・咽頭がん患者会の代表である三木様より、講演の依頼をいただきました。
同患者会では、勉強会として会員の体験談とがん医療関連の情報提供を行っています。
患者会会員での中には亡くなられる方もおり、三木様をはじめ会員の方々は、看取りの実情を会員に勉強してもらう必要性を感じていらっしゃいました。
その一環として「実際の看取りの事例紹介」や、制度面からみた看取りの体制、実際の事例を紹介して欲しいというご依頼を受け、2019年4月21日に講演を行う予定となっております。
患者さまも在宅医療に対して前向きに検討をはじめて、そして在宅医の技量の確認をはじめている、と感じていおります。
6:褥瘡
クリニック看護師と訪問看護師による「褥瘡治療の連携」を進めています。
DESIGN-R®を評価基準として用い、また褥瘡局所ケア選択基準をひとつのパンフレットとし、利用しております。
この件については、2018年7月14日に、日本在宅ケア学会学術集会にて発表を行ないました。
※DESIGN-R®:日本褥瘡学会が開発したアセスメントツールで、Depth(深さ)、Exudate(滲出液)、Size(大きさ)、Inflammation/Infection(炎症/感染)、Granulation(肉芽組織)、Necrotic tissue(壊死組織)の頭文字を組み合わせて命名
7:エンドオブライフ・ケア協会 東大阪支部の設立・活動
看取りの現場で耳にする
“なんで私がこんな病気になってしまったの?”
“家族に迷惑をかけるならば早くお迎えが来ないか”
というスピリチュアルな苦しみに対する具体的な援助を行なうために、どうすればよいのか。
その一つの解決方法を、エンドオブライフ・ケア協会が提案してくれていると考えております。
私どもは同協会の東大阪支部(ELC東大阪)を設立し、「死を前にした人にあなたは何ができますか?」をテーマに、定期的に学習会・講演会を開催しております。
また、地域包括支援センターから介護支援専門員資質向上研修(法定外研修)の依頼があり、定期的に介護支援専門員に対しての研修会も開催しています。
(3)苦しむ人への援助
本当に苦しみを聴けていますか?
どんな私であれば、苦しんでいる人からみて「わかってくれる人」になれるか?
それは、「聴いてくれる私」である。
「聴いてくれる私」になるためには、苦しんでいる人から委ねられなければなりません。
深く学んでみたいと思った方は、ぜひ、ELC東大阪の研修会にご参加ください。
そして第二部では、パネルディスカッションが行われました。
[在宅医]
(市立柏原)病院および緩和ケア科とは良い関係性を築けています。
病棟の空き具合にもよりますが、(市立柏原病院の)緩和ケア病棟は受け入れ態勢が良好。レスパイト入院が可能であることなど、市民へのアピールをもっと積極的に行なったらどうでしょうか。
[薬剤師]
市内の各々の薬局にすべての種類の麻薬(内服剤、貼付剤、液剤)がそろっているわけではありません、出来る限り早急に準備できる体制はとっています。
現在のところ、クリーンベンチが設置されている薬局はありませんが、今年中に設置予定のところがあります。
※クリーンベンチ:ゴミやホコリ、浮遊微生物などの混入(コンタミネーション)を防ぐために一定の清浄度レベルになるように管理された囲いの付いた作業台
[訪問看護師]
在宅訪問診療および訪問看護について、まだまだ浸透していない現状があります。
また訪問看護師側が病状を理解していない部分も見られ、まだまだ改善の余地があると考えています。
(市立柏原病院の)MSWは在宅側と密に連絡を取ってくれ、心強い存在です。
[ケアマネジャー]
在宅療養における環境整備だけでなく、どういった最期を希望されているのかを確認し、共有できるようにしていきたいと考えています。
[病院医師]
人生最期を笑って過ごせるように調整する、「エンターテイナー」としての役割だと思っています。
家族が自信をもって自宅に連れて帰れるという気持ちとなれるよう、調整を行ないたいと思います。
[病院看護師]
自宅復帰率が、平成29年度が11%、平成30年度が15%と徐々に上がっているものの、まだまだ帰りたい方が帰れていない状況にあります。
一方、死後、病棟にご挨拶に来て下さる遺族の方が非常に多く、明日へのモチベーションとなっております。
[医療ソーシャルワーカー(MSW)]
ご家族の不安を解消し、在宅療養へと導いていきたいと思います。
在宅療養において、在宅医は調整を行うことが主な役割となります。
患者さまの声は言うまでもなく、訪問看護師、ケアマネージャー、薬剤師、ヘルパー等々の声に対して、実直に耳を傾けることが重要であり、それが穏やかな最期を過ごすことのポイントとなるのだと考えます。
様々なご職業の方からご意見をうかがい、大変実りあるシンポジウムとなりました。
ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
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