言葉の重み〜思いは言葉にして伝えないと、伝わりません〜【看取りの報告書・BSさまのこと】
かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。
いつもお世話になっております。ご紹介いただきましたBSさまについてご報告させていただきます。
初回診察で、BSさまには著しい体動時の呼吸困難が見られ、安静時でも低酸素状態でした。しかし、BSさまは「まだ負けたくない、弱音を吐きたくない」という強い意志を持っており、「しんどい」や「息苦しい」という言葉は一切吐かれませんでした。一方、動くたびに肩で息をしているのを見て、どのように支えたら良いのかと奥様は悩まれていました。そこで、まずは自宅での療養環境の整備や症状緩和についてご説明しました。
翌日、BSさまから「息が苦しいから先生に診てほしい」と往診の要請があり、緊急訪問しました。呼吸の悪化を確認し、モルヒネ製剤の投与を開始しました。同時に奥様には、病状(脳転移による影響)と予後が数日である可能性を説明し、東京におられる息子様の帰省を提案しました。
奥様は急な展開に驚きを隠せませんでしたが、「半年前に肺癌と診断されてから、あっという間にここまで来てしまいました。整理しようと思っていた矢先に入院ばかりで、落ち着いた時がありませんでした」と話されましたが、すぐに覚悟を決め「私が出来ることをします」と力強く答えてくださいました。
その後は連日訪問し、奥様と一緒に出来ること・すべきことを実施しました。そして、大型連休を機に息子様が帰省されましたが翌日に、BS様はトイレ中に脱力し意識を失われ、ご家族に見守られる中、安らかに永眠されました。
奥様からは「本当にあっけなく旅立ってしまいました。ただ、息子が帰ってきたことが本当に嬉しく安心したのかもしれません。今日の晩御飯はなにを食べたいか聞いたら、彼は『お肉』と答えました。ここ最近、お肉なんて食べていなかったので、直接言葉にしなかったけど、息子の好みに合わせたのだと思います。私も息子がいてくれて安心しました。そして何よりも一番必要な時に先生方に出会えてよかったです」とのお言葉をいただきました。
この度はご紹介いただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
度々お話ししている「病の軌跡」について、再度触れたいと思います。
なぜ何度もこの話題を取り上げるのかというと、多くご家族の方が「病気が急に進行した。急に悪くなった」と感じるからです。実際に病状が急に悪化することはあります。特にがんという病気の終盤に表れる特徴ともいえます。しかし、そんな特徴があると事前に説明を受けていなければ、患者さんご本人とご家族は心の準備もできず、不安と恐怖、そして悲しみに襲われることになります。
ここで大切になるのが「言葉」です。
患者さんは、自分自身の身体の状態や想いを言葉でしっかりと伝えることが重要です。また、家族も患者さんに対して思いを伝えることが必要です。
医療者は、患者さんやその家族の想いを丁寧に聴き、できることを行う必要があります。
では、医療者にできることとは何でしょうか? 大きく2つのことがあると思います。
まず解決できることは解決する。つまり症状緩和です。
もう1つは、その患者さんの状況から、今後どのような状態になるのかを見据えて、丁寧に説明することです。
この説明がなければ、どうなるでしょうか? 先ほどお話ししたように、先がわからなければ、誰もが不安になると思いませんか?
とはいえ、説明だけでは人はなかなか想像ができないものです。だからこそ、私はこの「看取りの報告書」を通じて、多くの方にがん患者さんが終わりを迎える際の様子をできるだけ克明にお伝えしているのです。
「病の軌跡」と照らし合わせて変化を見ていくと、それは急な変化ではなく、当然の軌跡だと理解できるのです。
BSさまのケースでは、紹介状には抗がん剤治療中と書かれていましたが、明らかに状態は悪く、治療の継続はおろか、今の状態をいかに緩和するのか、そしてご家族に説明するのかが課題でした。
酷な話ですが、初回訪問で厳しい見通しのお話をさせていただくことも多いです。残された時間の問題から、信頼関係の構築に時間をかけることができない場合もあります。だからこそ、初めて会ったその日に、「この人に任せよう、任せられる、これで安心」と思ってもらう必要があります。
ただ、初回訪問の1時間から1時間半の間に、全てを把握することはやはり困難です。そのため、翌日にも訪問して状態を確認する必要があります。
翌日、BSさまの状態が前日より明らかに変化していると判断した私は、奥様にクリニックに来ていただき、奥様に見えている景色について確認しました。
すると、奥様は「一ヶ月前に痙攣して入院してから転げ落ちるように状態が悪化しています。先日の受診の際も、医師から「調子はどうですか?」と聞かれて、夫は『変わりないです。しんどくないです。息も大丈夫です』ってあっさり返事したので、先生も「次も抗がん剤治療できるでしょう」という流れになりました。
でも、あまりにも不安だったので、部屋を出る前に先生に『今日の受診も大変でした。次回来られるかわからないくらい家では大変です』と言うと、『そうですか、何かあったら連絡ください』と言われました。その言葉に一瞬『何かが起こるの?』と引っかかりましたが、それもお決まりの言葉かなとも思っていました」と話されました。
私たちが介入する最終段階よりも前に、ご家族がこのような不安や状況であったことをしっかりと丁寧に聴き取ることが大切であり、また適切な対応をすることが重要です。
こちらは、いつもかわべクリニックで使用している、がんという病の軌跡についての図です。
がんは当初の数ヶ月から数年間、全般的に機能は保たれますが、最期の1~2カ月の急速な機能低下が特徴的に起こります。
つまり亡くなる2ヶ月くらい前から変化が出始め、1ヶ月前くらいになると週単位で状態が悪くなり、1週間を切ると昨日と今日で状態が変わってきます。
この説明を聞いた奥様は、「やっぱり悪いのですね。夫と息子と三人で話していたことは、できる治療はする、各自健康には気を付ける、ちゃんと働くということです。できる治療というのは、抗がん剤治療ができる状態であれば行う、もしそうでないのであれば、症状を緩和する治療を行う。それが病院でしかできないのであれば病院に行くし、家でできるのであれば家でお願いします。変な話ですが、急な展開ではあるけれど、このタイミングで出会えてよかったです。心強いです」と話されました。
翌日、息子さんが帰省され、支えてくれる家族が増えたことで、再び穏やかな時間が訪れたのも束の間……私たちとの出会いからわずか5日目で、BS様は旅立たれました。
奥様より「本当にあっけなく旅立ってしまいました。ただ、息子が帰ってきたことが本当に嬉しかったのかもしれません。夫も私も、息子がいてくれて安心しました。そして何よりも一番必要な時に先生方に出会えてよかったです」とのお言葉をいただきました。
病院の医師にも限界があります。数分の診療の中で変化をキャッチしにくいこともあります。だからこそ、患者さんが自身の変化を言語化し、伝えていくことも大切です。また、ご家族も患者さんに代わって伝えることも必要です。
それは、医師に対してだけでなく、看護師や薬剤師でも誰でも構いません。誰かに伝えることで、思いは繋がっていきます。
そして思いは言葉にして伝えないと、伝わりません。
「最後は自宅で過ごしたい。自宅で過ごさせたい」
そう思っておられる方は、そばにいる人に意志を伝えてください。
それが、かわべクリニックとの出会いの始まりです。
【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます
\懇親会のご案内/
第15回まちカフェ@東大阪プロジェクトinゆめふる長田
リアルでも顔の見える関係を築きませんか?
参加を申し込む「まちカフェ」は、暮らしを支える皆さま(医療・介護・福祉に限らず)が集うトークカフェイベントです。
懇親会もあり、意見交換、お悩み相談、名刺交換など自由にお話しいただけます。
スタッフも利用者もそのご家族も上司も部下も家族も何もかも、人間関係で大切なことは実は同じ。
「利用者だから」で行動を変えるのではなく、誰であっても大切なことを意識する。
そうすることで管理者として離職率を下げるだけでなく、仕事やプライベートでの人間関係も楽になる。
そんなちょっとしたコツをお伝えします。
介護エンターテイナー(石田竜生さん)の『笑いの体操』もあるよ!
話題提供:「ダメダメ施設長が退職者ゼロの施設長へ 〜施設で学んだ人間関係で1番大切なこと〜」
ポジティブハッピーランド代表(株)リープス顧問 森崎のりまさ さん
日時:令和6年6月8日(土)18:30~20:00(途中参加・退席可。お早めの来場をお願いいたします)
場所:デイサービスゆめふる長田 東大阪市長田東1-2-34(コインパーキングあり・有料)
大阪メトロ・近鉄けいはんな線・長田駅 徒歩1分
定員:40名程度
対象:どなたさまでも(職種は問いません)
会費:2,000円(コーヒー+スパイスカレー(ミニサイズ))・バターチキンカレー(カームスペース・週末のみ営業の名店)
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