経験を語る、経験から学び、そして考える【看取りの報告書・BNさまのこと】
かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。
いつもお世話になっております。BNさまについてご報告させていただきます。
娘さまからのご依頼を受け、夏ごろより訪問診療を開始しました。貴院からロンサーフ(直腸・結腸・大腸がんの治療薬)が処方されていた時期には、副作用や現症に対する不安などをお伺いしながら、サポートさせていただきました。
PD(progressive disease=がんの病態が進行すること)の診断でロンサーフの処方が中止となった際、BNさまは一時的に落ち込んでおられました。しかし、お仕事をなさっていた頃のお話やご家族について語られると、笑顔が戻り、多くの思い出を共有できました。常にBNさまを中心に考え、静かに寄り添ってくださる奥さまと、ご夫婦を絶妙な距離感で見守ってくださり、必要なタイミングで手を差し伸べてくださる娘さまご家族に支えられていました。
徐々に食欲低下や倦怠感が増す中でも、常に穏やかな表情で医療者を迎えてくださいました。貴院で予後が2か月以内であることが説明された際、ご家族はさらにギアチェンジし、BNさまの体調に合わせた生活のサポートをされました。当院からのアドバイスにも、食べたいものを食べること、量や体調に一喜一憂せずに受け入れることが大切である旨をお伝えしました。BNさまもそれを理解され、静かな療養をされました。
入眠時間が長くなっても、BNさまは苦痛症状の緩和に難渋することなく家族に見守られながら安らかなお顔で永眠されました。BNさまの化学療法治療中から介入できたことで、治療中から治療中止そして看取りまで、BNさまご家族さまとの関係性を継続的に構築できたことが、穏やかな看取りにつながった一因と感じております。このような貴重な時間をいただけたことに感謝申し上げます。ご紹介いただきありがとうございました。BNさまのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
今後ともよろしくお願いいたします。
以前は、かわべクリニックが担当する患者さんの多くは主に病院からの紹介が中心でした。しかし最近では、地域のケアマネージャーさんや以前お世話になったご家族の方々からの紹介、そして患者さんやその家族から直接依頼されるケースが増えています。
BNさまも、娘様からの電話でのご依頼がきっかけでした。当ブログに掲載されている「看取りの報告書」をお読みいただき、在宅医療の情報を得たことがきっかけでした。その中で「父も自宅で穏やかに過ごしてほしい」という思いを率直に表現され、在宅医療を受ける方法やその他のサポートの方法について尋ねられました。
私たち医療関係者にとって、患者さんやご家族からの直接の依頼は、非常にありがたいものです。患者さんやご家族の希望をお聞きすることで、より適したケアの提供につながるからです。今回も娘さまが考える「父が最期を迎える際にどのようなケアが望ましいか」をじっくりとお伺いできました。在宅医療に関する理解を深めていただき、大切な情報をお伝えすることは、私たち医療者が患者さんやご家族との信頼関係を築く上で欠かせないポイントです。
もともとこの「看取りの報告書」は、病院を退院し、在宅療養を受けることとなった患者様が最期の時間をどのように過ごされたか、その様子をお世話になっていた病院の看護師に伝えるために作成していました。私も病院で働いていたときは、担当した患者様が退院や転院された後の様子が気になっていました。担当医に尋ねて「いつ頃亡くなったか」と教えていただいたり、ご家族が病棟までご挨拶に来た際に情報を得たりすることもありました。
医師同士が報告書を通じて連携しているように、看護師同士も連携し、顔の見える関係を築けないかと考え、かわべクリニックが開業した初期から、「看取りの報告書」を病院の看護師、退院支援課、MSWに宛てて送付してきました。病院と在宅医療機関が患者様を通じて、最期まで連携する意義の問いかけにもなっています。
「看取りの報告書」を作成すると、それぞれの看護師が看護を振り返り、看護観や死生観を見つめ直す重要な機会となります。患者さんの死を負の感情ではなく、新たなる学びとして受け止め、成長につなげられます。私たち自身のグリーフ(深い悲しみ)ケアにもつながります。
さらに病院からは「退院後の生活のイメージができ、在宅での患者の表情の違いが実感できた」といった声があり、病院を離れた後の様子や在宅での変化に気づくことができ、看護における新たな視点や理解につながるのも、看取りの報告書が果たせる役割の1つです。
BNさまの最期の診察のあと、今までの関わりをご家族とともに振り返ったときに娘さまはこのように呟かれました。
「元々父は大酒飲みで、話をする機会も少なく、避けていました。でも大腸がんが分かり手術後にはお酒をやめました。すると父と話をする機会が増え、今までできていなかった親孝行をしないといけないという気持ちになりました。そんな中、かわべクリニックさんに話を聞きに伺い、最期まで看てもらうことを決心しました。
本当に最後の最後まで穏やかに過ごしていて、父は最初から『川邉先生の言うとおりにする。だから指示どおりに利尿剤を飲む』と言っていました。その結果、先生方の言葉通り、お腹の水も減って足のむくみもなくなりました。食べたい時に食べたいものを食べられたから、今でも身体が本当に綺麗です。
今朝5時くらいに、我慢強い父が「痛い」と初めて言いました。母が痛み止めの水を服用させ、落ち着いたところで「わし、もう逝くわ。ありがとうな」と母に告げ、眠りにつきました。祖父母を見送ったとき、母はそのような言葉をかけられなかったそうですが、今回はあの言葉で本当に癒されました。これも先生方のおかげだと思います。
朝方、私の夫もいつもと違う胸騒ぎがしたようで、父に「いってきます」と声をかえたら「いってらっしゃい」と返事していたんです。しばらくしたら、呼吸が浅くなって…本当に苦しまず、最期まで話すことができて家で看る事ができて、よかったです。ありがとうございました。
奥さまも次のように話されていました。
「今朝、『ありがとう、世話をかけたな』と言われたから『まだもっともっと世話するよ』って言ったんです。下の世話をすることなく、そして最期に感謝の言葉も言ってもらえて、嬉しい限りです」
患者さんのこれまでの生活が自宅に根付いており、そこで人生の最期を迎える。この場面に立ち会う看護師として、生ききった姿を関わった全ての方々に伝えることが重要だと私は感じています。そのために具体的なケアやそれによって患者さんが穏やかな最期を過ごすことができたかを報告書としてまとめ、情報提供することが、在宅療養に対するイメージを良い方向に変える好機になります。
在宅療養は、大きな病院で医療を提供する人たちにとっては未知の領域です。だからこそ在宅の現場と連携し、関係性を深めるには意味があると感じています。関わった患者さんが退院後に、どのように生きたのか、最期を迎えるあたってご本人はどう向き合ったのか、まわりはどのようにサポートしたのか。ただの医学的な事実だけではなく、人間的な視点からも理解してほしいと思っています。
私のブログを通じて、在宅療養の現場での様子や患者さんの姿に触れ、その中での連携の重要性を感じていただければ幸いです。そして、この経験を知ることで、自分の人生について深く考え、どのように過ごしたいかを見つめ直してほしい。私のブログが、その一助となり、読者の方々が繋がりを大切にし、生きる意味を見つける手助けとなれば嬉しい限りです。
そのために、私は書き続けます。
【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます
>ぜひご参加ください<<
短編ドキュメンタリー映画「がん家族。」の特別上映会
\東大阪市在宅医療介護連携事業・布施医師会が主催する映画上映会のご案内です/
映画上映会(東大阪市在宅医療介護連携事業)
主催:布施医師会
日時:2024年(令和6年)2月10日(土) 開場・13時30分 開演・14時
会場:大阪商業大学蒼天ホール (大阪府東大阪市御厨栄町4-1-10)
定員:一般市民の方々300名
参加費:無料
【申込フォーム】
https://17auto.biz/fuseishikai/registp/entryform21.htm
映画「がん家族。」について
監督・撮影・編集・総合プロデュース:酒井たえこ
製作・著作 : 一般社団法人Mon ami
企画・制作 : がん家族。制作チーム(桜の舟プロジェクト)
制作:2021年
公式サイト:https://eigagankazoku.jimdofree.com/
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