「悲しいものは悲しい」それでも前に進むための「居場所」とは【看取りの報告書・BMさまのこと】
かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。
これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。
いつもお世話になっております。貴院に入院歴のあるBMさまについてご報告させていただきます。
貴院入院中に娘さまが当クリニックに来院され、次のように話されました。
「母は腎機能が悪いですが、透析は受けたくありません。パーキンソン病もあるので食べられなくなるのも仕方ないです。かかりつけの先生に、一時的に自宅で点滴をして欲しかったのですが『調子が悪いなら病院に行くように』と言われ入院することになりました…。病院ではよくしてもらい感謝しています。それでも母を自宅に連れて帰りたいです。最期まで自宅で看たいです。」と涙ながらに訴えられたのが印象的でした。
ご希望を受けて、退院となり在宅訪問診療が開始となりました。母と子一人、娘さまの介護負担は想像を超えるものでしたが、毎日懸命にケアされていました。
リハビリや訪問看護も導入し、少しでも娘さまの介護負担が軽減されるようにサポート。そして、今年の夏、熱中症も懸念されましたが、少量の水を頻回に飲ませる、食事介助に2時間かけるなど、BMさまの力を信じて娘さまが頑張ってケアを行っていました。
徐々に衰弱される母の姿に悲しみを言葉にされることもありましたが、この歳月が受容のための期間となっていきました。
そして退院から1年2か月あまり、BMさまは、娘さまに見守られ安らかに永眠されました。
1年以上もの間、毎日頑張った娘さまにとって、長く濃い時間だったからこそ喪失感があったのはもちろんです。ただ、このプロセスがあったからこそ、深いグリーフ(悲しみ)にはならなかったと考えています。
どうぞ今後ともよろしくお願い致します。
グリーフ(grief)とは深い悲しみや大きな喪失を表す言葉で、グリーフケアとは「どうしようもない悲しみのケア」を表す言葉です。
生きていると、さまざまな喪失や別れの悲しみ(grief)を抱えます。しかし、私たちの多くは悲しみの取り扱い方を学ばずに大きくなっていきます。1)
参照1:みんなのグリーフケア
そう、私たちは生きている限り、誰かとの別れがあり、それに対して悲しい思いをする。
でも、その悲しみに対して、自分自身や相手のケアの仕方を知らずに、感覚的に過ごしています。これは、私自身がグリーフケアについて学ぶうちに一層実感してることでもあります。
クリニックで「看取りのケア」をしているにも関わらず、十分な遺族ケアが行えていなかったことも、ずっと気がかりでした。
そこで、東大阪プロジェクトでは、「まちの保健室」を2023年7月より開設し、9月より本格的に運営しています。
「まちの保健室」の目的は次の2つです。
病院へ行くほどではないけれど、最近ちょっと気になることがある。学校や家庭のことで、ひとりで悩んでいることがある。家での療養生活のことでアドバイスがほしい、など生徒の相談や癒しの場でもある学校の保健室のように、さまざまな不安や悩みを看護職に気軽に相談できる場所。これが「まちの保健室」の役割です。2)
参照2:大阪府看護協会「まちの保健室」
もう1つの目的はがん遺族サロン、つまり悲しみを吐露して、共有できる場所、がん遺族の方が安心していられる場所です。ここは誰にも遠慮せず、泣き、笑い、話せる場所であり、いろんな目的としての「いばしょ」を提供したいと考えて設立しました。
これまでも毎回、10~15名の方が参加してくださり、繰り返し来てくださる方も多数おられます。パートナーを亡くされて数か月の方、数年が経過されている方などさまざまです。
「まちの保健室」に来られた遺族の方々とお話しすると改めて知ることがあります。
誰にでも悲しみは存在し、その悲しみの深さは人それぞれだということです。
104歳のお母さまを看取られたご家族に、多くの人が「おかあちゃん104歳まで長生きできて、大往生だったね」と言われる。確かにその通りです。
でも、看取った娘にとっては母がいなくて、寂しい。もっと母といたかった。だから、大往生と言われても嬉しくない。ただただ悲しい。
この話を聴いて初めて、私たちは気付かされることもあるのです。知らず知らずのうちに、誰かを傷つけていたのではないかと。
BMさまのお看取りから2年もの年月が経過した頃、懸命のケアを続けられた娘さまが「まちの保健室」に参加してくださいました。
娘さまは「母が亡くなったあと、なんのために、誰のために、私は生きているの? ぽっかり穴が開いてしまったような日々でした。でも、まちの保健室で話を聴いてもらい、自分の体調が悪いことに気付けました。今、治療しています」と、少しだけ前に進めているようでした。
「悲しみは消えることはない」のは、まさにその通りです。だからこそ、『悲しみ』を含む『生』を支えるグリーフケアが重要と感じた瞬間でもありました。
毎日時間は経過しています。
しかし、悲しみの真っただ中にいる方には時間が止まったままのこともあります。
がん遺族サロン(まちの保健室)での会話を通じて、悲しみの中にいる人の心を知った私たちができることは、まず悲しみの存在を少しでも多くの方に知ってもらうことです。
もし身近な人で同じような経験がされた方がいたら、安易な励ましではなく、そっとしておくのでもなく。
「気にかけているよ」「そばにいるよ」という合図をお互いに出し合える地域こそが、穏やかで安心できる地域なのではないかと思います。
私たちは、そんな地域を作っていきたい、広げていきたいと感じています。
よろしければ、がん遺族サロンの立ち上げを決めた際の記事もぜひご覧ください。
【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます
>ぜひご参加ください<<
【お知らせ・縁起でもない話をしよう会・第33回(参加費無料)】
一緒に縁起でもない話をしませんか?!
どなたでも参加いただけますので、皆さんのご参加をお待ちしております。
【申し込み】
https://88auto.biz/higashiosaka/registp/entryform49.htm
話題提供:
いま巷で話題のコミュニティコーピングってなんやねん?
[堀智子さん 藍野大学医療保健学部看護学科講師(地域・在宅看護学)
コミュニティコーピング認定ファシリ―テーター7期生]
フリートーク:
後半は、話題提供を受けての語り合いの時間。
5名程度のグループとなり、自由に縁起でもない話をしていただけます。
日時:令和5年12月21日(木)18時30分から20時
場所:オンライン(Zoom)
定員:50名程度
参加費:無料
※クリックするとPDFが表示されます
ぜひ、お気軽にご参加ください!
最新の記事
ハッシュタグ