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「なぜそのような行動を?」自分への問いかけが他人を幸せにするカギ【看取りの報告書・BGさまのこと】

かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。

これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。

看取りの報告書BGさま

自宅に戻るなら今?…つまり私に残された時間はないってこと?

病院への看取り報告書

いつもお世話になっております。
8月6日に退院されましたBGさまについて、ご報告させていただきます。

旦那さまや娘さまの「自宅に連れて帰りたい」「連れて帰って良かった」という思いが十分に伝わった一方で、ご本人が「【帰るなら今】と言われたということは、もう時間がないのでしょう」と、自身の死を悟った表情をされたのが印象的でした。

退院直後より、痛みを訴えておられたためオキファスト(がんの痛みが強いときに使用される鎮痛薬)を調節し除痛をはかり、可能な限り介助でトイレに行くことを目標としました。旦那さまは「ぼくは、何もできない」と言いながらも常に寄り添われていました。娘さまは2人いらっしゃり、ともに仕事と家庭の合間に、2人がかりでBGさまの清拭や洗髪をされるなどのケアをされていました。

動くことに限界を感じ、自ら膀胱留置カテーテルの留置を希望され、日を追うごとに臥床時間が長くなっていきました。そんな中、旦那さまが思い出の旅行の写真を取り出して盛り上がり、それを閉眼したまま聞いておられるBGさまの姿。

そんな穏やかな時間が経過し、8月11日午前、旦那さま、ご家族さまに見守られる中、安らかに永眠されました。旦那さまは「彼女がいないと生きていけない、向こうでも一緒に旅行しよう!」と大泣きされ、ご夫婦の愛の形を見せていただけた気がします

この度は、ご紹介ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。

花壇のイメージ写真

「なぜ、なぜ」がもたらす3つの効果

先日、私は「こころのバリアフリーを実現する緩和ケアと地域医療 ~気づいていますか 医療・介護者が作るバリア~」というタイトルで、地域連携×緩和ケアについての講演を行いました。

この講演で一番伝えたかったことは、「自分に問う」ことの大切さです。
つまり、「なぜ、なぜ」と質問しましょうということです。

では、なぜ「自分に問う」こと、「なぜ、なぜ」を繰り返すことが重要なのでしょうか。

その理由は3つあります。

  • 1. 自己認識が向上する……自己との対話で自身の強みや弱み、価値観や信念の理解につながる
  • 2. 問題解決力が向上する…問題を深く理解でき、解決策の発見につながる
  • 3. 人生の目的が見つかる…自身の目標や望みを明確にし人生の方向性を定める
いずれもデータでも証明されている、自分に問うことの効果です。

物事に対し、「なぜ、なぜ」と自分に問いかけることで考える習慣が身につきます。その結果、課題が見つかりやすくなり、解決策も見えてくるのです。これが実践への第一歩となります。

自己対話・自己反省は看護学生時代に習慣づいた

私自身、看護学生の頃、臨床実習後に担当教員と振り返りを行う機会がありました。
「なぜそのような行動をしたのか?」
「なぜそのような発言をしたのか?」
「なぜそう思ったのか?」 …などの質問を繰り返し受けました。

最初は「そんなこと言われたって…仕方ないやん」と思っていましたが、担当教員からは「私はあなたを責めているのではない。あなたが自己成長するために、自分自身で振り返りを行う必要があるのだ」と、説明を受けました。

その言葉にハッとさせられて、自己対話や自己反省に取り組むようになり、気が付けば習慣化していたように思います。

なぜ「帰るなら今」だったの?なぜ説明は急なものだったの?

「自宅に帰るなら、今(しかない)」と言われたことで、死を受け入れる覚悟ができた患者さんの表情は、私に強い印象を残しました。たしかに「最期のときは自宅で過ごしたい」と、ご本人も、ご家族も願っていたことでしょう。だから「願いがかなってよかった」のでしょうか。

死を迎える覚悟ができたことは、言い換えれば、私たち医療者が「今しかない」と伝えたことで、結果的に覚悟を迫ったとは言えないでしょうか。

急な説明になってしまう背景

では、患者さんにとって急な説明になるのはなぜでしょうか? どうしたらもっと早くから心の準備ができるのでしょうか? このことを医療者がそれぞれの立場から自分自身に問いかけることで、解決策を見つけることができるのではないかと思います。たとえば、早い段階で自宅に帰る時期をおおむね決めておくのも1つの方法かもしれません。

しかし、医療者には「最善を尽くし、病状が好転することを期待したい」と考える傾向があります。そのため、治療の経過を「できるだけ長く見たい」という気持ちがあるものです。それで良くなる場合もありますが、病状が悪化し「もう改善は期待できない」と判断せざるを得ない場面も当然あります。

そのような考えが変わった時点で、「急な展開の説明」を行っている傾向にあるように思います。

病状を説明するときの食い違いの典型例としては
・医療者は「最悪のパターンを説明しているつもり」
・患者さんとその家族は「治療の効果が見込まれるのでがんばりましょう」と言われた当時の記憶のまま

その結果、医師より現状を聞かされると、「急に!? そんな状態と思っていなかった」と、患者さんやご家族がギャップに苦しむことも少なくありません。

そして過ぎた時間はもう取り戻せず、その間も刻一刻と医療者が判断するための、患者さんにとっては大切な人と過ごすための貴重な時間が失われていきます。

私は何らかの理由で入院した時点で、よくなった場合とそうでない場合を想定した上での今後の選択について患者さんを主語に一緒に考えられるとよいと考えます。

私たちは、「病気を診るのではなく人を診る」力を養い、患者さんや家族さんに適切な説明を行い、しっかりとサポートすることが重要です。その結果、患者さんや家族さんも病気と向き合うことができるようになるからです。

治癒を望む期待と同時に最悪の事態に備える準備ができるようになり、その後の対応力が変わり、充実した人生を送ることができるのだと私は考えています。

私たちのクリニックの理念は、
「最期は自宅で」
「帰りたいと思った時が帰る時」です。

 

連携

ゴールは自宅に帰ることではなく、穏やかに過ごせること

大切なのは、ただ患者さんや家族さんをスムーズに受け入れることではありません。「自宅に帰れたからよかった」だけではないはずです。あくまで住み慣れた自宅は、心穏やかに暮らすための手段だからです。

「なぜ自宅がいいのですか?」
「なぜ今帰りたいと思ったのでしょうか?」

まず背景にある思いを私たちが自身に問いかけ、そして患者さんや家族にも問いかけることで、最善の方法を見つけ、地域連携を強めることが重要だと考えます。

簡単なテーマではないので、一回だけ考えてもおそらく答えは出ないでしょう。だからこそ各自が自分自身に問いかけて、解決策が見つかるまで繰り返し問わなければならないと思います。豊かな社会の実現に向けて、私たちが今できることは「自分に問うこと」です。

【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます

>ぜひご参加ください<<

【市民公開講座・第37回日本保健医療行動科学会学術大会(有料)】

下記の特別講演・シンポジウムにて講演します。

どなたさまでもご参加いただけます!

【申し込み】
事前申込は不要です。受講を希望される場合は当日会場に直接お越しください

【問い合わせ】
第37回大会実行委員会事務局mailto:37jahbs@gmail.com

【開催要項】
未来志向の保健医療行動
日 時:2023年6月18日(日)

12:50-13:50 特別講演「ストレスの正体」
中川 晶(京都看護大学、なかがわ中之島クリニック)

14:00-15:30 シンポジウム「なぜ私たちは縁起でもない話を避けるのか」
川邉綾香、川邉正和(医療法人綾正会かわべクリニック)ほか

対 象:一般市民(東大阪市民に限らずどなたさまでも)
参加費:1,000円(当日受付でお支払いください)


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