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ここがお父さんの居場所だったから【看取りの報告書・BEさまのこと】

かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。

これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。

ここがお父さんの居場所だったから
~家には「それでも自宅に帰りたい」と思わせる力がある~

病院への看取り報告書

いつもお世話になっております。
ご紹介いただいたBEさまについてご報告させていただきます。

退院前カンファレンス時が行われたのは5日前のことでした。しかし「そのときより状態が悪化している」とS先生よりご連絡を頂いたこともあり、退院当日は自宅でBEさまの到着を訪問看護師が待ち受けるようにスタンバイしました。帰宅直後は、疲れた表情にも見えましたが、長年営業されていた『街の食堂』の中央に配置されたベッドに横たわり「焼きそば 500円」などと書かれたメニューの貼り紙などを見つけ、ほっとした表情を浮かべておられました。

奥さま、娘さまからは、「家に帰って来たことがわかったようで、涙していたようです。家に連れて帰って来てよかったのか、と不安になったけど、これでよかった。私にできることはありますか?」とBEさまをしっかりと支えたいという気持ちが確認できたため、そばで見守っていただくようにお願いしました。

その2時間後、訪問診察の際には焦点が合わず、手足をしきりに動かすなど不穏な状態となり血圧も低下が確認されました。退院された当日でしたが、急変およびお看取りとなる可能性についてご家族に説明を差し上げました。

帰宅から5時間後、呼吸状態が変化したとのご連絡を受け緊急往診。午後6時57分、奥さま、娘さまに見守られる中、安らかに永眠されました。

奥さまからは「早くてびっくりしたけど、ちゃんと家に帰ってこられてよかった」とのお言葉を頂きました。

この度はご紹介いただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

東大阪市の街並み

ケアを振り返って

あなたの落ち着く場所はどこですか?

前回のブログでも「居場所」についてお話ししました

緩和ケアと無関係のように思っていた建築が、実は私たちにとって大切な居場所そのものだったというテーマです。

患者さんやご家族の「最期は自宅で過ごしたい」という想いを叶えるため、私たちなりに在宅訪問診療を通して、皆さんのことを支えてきました。

病院にお勤めの医療介護従事者の方からはこのようなご質問をよく受けます。
「自宅に帰った患者さんの表情が、病院にいるときとは違うというのは本当ですか?」
「24時間ずっと医療者がいる病院を離れるのに不安なはずなのに、自宅が落ち着くってなぜですか?」

私は、
「本当です。そして心が落ち着くのは、おそらく家の持つ力のおかげです」
とお答えしています。

住み慣れた自宅が持つ力 住み慣れた自宅が持つ力

知られざる『家の持つ力』

この『家の持つ力』について考えてみます。

患者さんにとって、苦しみがありながらでも穏やかになれる場所。

ご自宅が患者さんにとっての「居場所」であることは珍しくありません。見慣れた景色、こころ落ち着く場所、身体的苦痛がありながらもリラックスできて、最後に家族と過ごすことで、自分の存在を感じられる。

そして、自分の身に訪れつつある死を受容しつつ、安心できる場なのでしょう。

このようなわかりやすい力を持つ場所は、長く親しんだ自宅以外にそうは見つかりません。

 

医療・介護者が知らず知らずのうちに「居場所」を取り上げている

「〇〇さんは独居だから、希望されても最期の時間を自宅では過ごせない、亡くなるのは無理ですよね?」
という医療介護従事者の声。

たしかに誰の支えがなければ、最期を自宅で過ごすのは難しいでしょう。一般的には悪意のない声だとも思います。

でも医療介護従事者の何気ない声が、〇〇さんから「居場所」を取り上げてしまっているとも言えないでしょうか。

この方にとって、もっとも心落ち着く『居場所』はご自宅でした。落ち着ける場所で安らかに最期を過ごしたいと考える方は多くいらっしゃいます。多職種が一緒になって関われば、患者さんご本人に安心が生まれ、「最期までご自宅で過ごす」ことが可能となるのです。

 

ここがお父さんの居場所だったから

今回お看取りBEさまのお住まいは、1階が食堂、2階が住居という作りの昔ながらの「街の食堂」でした。

店内は決して広くありません。店の引き戸をガラガラと開けると、すぐに奥の厨房が目に入ってきます。

「いらっしゃい、毎度!今日は何にします?」

厨房に立つBEさまが、お客さんに声をかけていた姿が目に浮かびます。

お客さんは壁に貼られたたくさんのメニューを確認することなく「大将、今日は焼きそば定食!」
と注文していたことでしょう。

そんな光景が思い浮かぶ食堂の真ん中に、かつて所狭しと料理が並べられたテーブルや椅子は片付けられ、介護用ベッドが置かれていました。

初めてお伺いしたとき、私は「えっ、ここにベッド? 寝室は2階じゃないの?」と驚いた私は、思わずケアマネージャーさんの顔を見つめました。

私の驚きを察したケアマネージャーさんは、
「店の扉を開けっぱなしにして、ご近所さんに声をかけるのがBEさんのこだわりであり、日課だったんです。入院中は、挨拶ができなかったから『家に帰ってきたよ』とみんなに伝えたくて、ここにベッドを置かれたんです」と話されました。

住み慣れた自宅が持つ力

 

大切な「居場所」に帰り過ごした意味

BEさまの居場所は、この1階の食堂だったのです。

この1階の食堂こそが、BEさんが社会と繋がっている接点であり、公共の空間も兼ねた居場所そのものだったのだと感じました。

かつて昼夜を問わず、良心的な価格設定で町工場の職人さんの胃袋を満たしていた食堂の大将は、近隣の小中学校に通う子どもたちを見守り続けることが大事な日常だったのです。

BEさまに限らず、入院先からしばらく離れていた自宅に帰ったときに安堵の表情を見せる患者さんを多く見てきました。それぞれの患者さんの思いや考え、そして大切な「居場所」がそこにはあるのだと改めて考えさせられました。

東大阪市の街並み

 

最後に帰れる「居場所」は安心を生む

結びとして、アメリカの作家であるドロシー・ロー・ノルトの名言をご紹介します。

最後に帰ってくる場所。
どんなときでも温かく迎えてくれる場所。
それが家庭であり、家族なのです。
そこにしっかりとした自分の居場所があればこそ、人は安心して生きてゆけるのです。

私はこの名言から一歩前進し、もし家族のいないおひとりの方でも、どんな人にも、どんなときも、穏やかなこころでいられる「居場所」を提供できる人でありたい。そう誓いたいと思います。

今回も最後までお読みいただいてありがとうございました。

 

【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます

>>ぜひご参加ください<<

看護未来展2023・特別講演

「自分らしい生き方とは」ともに考える人生会議
~元気なうちに「人生の最期」を考えるACP(人生会議)~

(医)綾正会かわべクリニック 看護師 川邉 綾香

【セミナー受講申し込み】
https://www.tvoe.co.jp/bmk/seminar/app/

【ご注意ください】
上記より申し込みが必須です。
「参加予定」ボタンのみでは、参加に必要なURLが届きません。

会場:インテックス大阪(大阪市住之江区南港北1-5-102)国際会議ホール
日時:令和5年4月21日(金)15:00~16:30

(公社)大阪府看護協会
定員:180名(事前来場登録制)

受講無料、ただし事前の申し込みが必要です

看護未来展の案内

クリックするとPDFが表示されます

主催:大阪府社会福祉協議会・テレビ大阪
対象:どなたさまでも

人生会議のことを聴いてみたい、自宅で最期を迎えるなんて本当にできるの? 看取りの看護師は何をしてくれるの?

親御さんやパートナー、ご自身の将来について、考える機会としてこのような講演会は、ちょうどよいきっかけになると思います。どなたでも参加いただけるオープンな会です。ぜひ一緒に「人生」について考えてみませんか。

特別公演は4/21(金)15時より

クリックするとPDFが表示されます

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