中河内医療圏がん診療ネットワーク協議会緩和ケア部会研修会で講演を行いました
こんにちは。院長の川邉正和です。
私たちは東大阪プロジェクト「出会うことで人が動き出し、ともに未来を変える~穏やかなエンディングを」の一環として、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)、緩和ケアに関する講演を行っています。
今回は、中河内医療圏がん診療ネットワーク協議会緩和ケア部会が主催する研修会にて講演をさせていただきました。
テーマは「ACPを共に考え、ともに語ろう!」。
基調講演は、淀川キリスト教病院 池永昌之先生、若草第一病院 山本直美先生。
具体的に考える機会を作ることの大切さ、自分らしく生ききるためには想いを伝えておくことが大切だということ。
患者さま目線での治療、ケアを行うには、「あなたはなぜそう思うのですか?」という言葉がけが有効で、自分らしく「生ききる」サポートを心がけていると。
患者さまの想いを地域で共有していくために実践していること(ACP冊子の活用)についてご報告いただきました。
また座長を勤められた進藤喜予先生からは
相手の話を聞く際にはアンケートにならないこと
コロナ禍においてマスク着用が必須の現状で、マスクからはみ出るくらいの笑顔も必要であること
を学ばせていただきました。
私は「在宅バージョン」と題し、ACPを共に考える上での在宅医の役割、コロナ禍に感じることを講演させていただきました。
伝えたかったことは、「対話により、その時の気持ちを聴き、実現に向け地域で関わる」ということ。
では、全編をご紹介します。
かわべクリニック
在宅訪問診療でも緩和ケアを主としたクリニックで、
人生の最終段階を意識した時に出会うことが多いクリニックと言えます。
簡単に自己紹介させていただきます。
私は大阪生まれの大阪育ち。
ご縁があって、大学および研修医時代の8年ほどを福井で過ごしました。
その福井なのですが、先日、大雪で除雪作業が間に合わず、幹線道路は麻痺。
友人のクリニックも大雪に見舞われ、駐車場も一日で真っ白。
3年前にも豪雪を経験していたのですが、特に対策はしていなかったとのこと。
やはりキケンを事前に察知することは大切ですね。
「キケンを察知」は医療も同じ。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は事前対策。
もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組のことです。
自動車保険や火災保険も同じです。
事前に対策をしておけば、すごくパワーを発揮しますよね。
では、その話し合いっていつやるのでしょうか?
先ほどの火災保険などは、こちらのスライドですと、「健康な時」や「病気になった時」」になるかと思います。
かわべクリニックに来られる方のほとんどが、「最終段階を意識する時」です。
それまでにも話し合いをされていたかもしれません。
ただ、時期により話し合う内容や気持ちは変わるものです。
だから、改めて、この時点でも話し合う機会を持つことが大切になります。
では、この最終段階を意識する時にどのようなことを話し合うのか。
この対話により、その時の気持ちを聴き、実現に向け、地域で関わる。
そう、クリニックだけの問題ではないんです。
関わる地域スタッフみんなで本人・ご家族の思いを共有します。
こんなコロナの時期ではありますが、密とならないように配慮し、初回訪問の際には全ての職種の方が揃うように心がけています。
そこで、
受けたい医療の希望
希望する療養場所
などなど、いろいろの思いを共有します。
ここで事例を紹介します。
Aさん 70代後半女性
大腸癌末期状態、多発肝転移
既往:脳梗塞後遺症
家族構成:夫とのふたり暮らし。娘は神戸在住。
左不全麻痺があり、訪問介護・デイサービスを利用し生活。
夫は、多系統萎縮症で寝たきり。実は・・・3年前から夫の在宅医として介入していました。
ある日、Aさんの夫を担当している訪問看護師から。情報提供あり。
「Aさんが側腹部痛のため、O病院を受診したら、大腸癌末期、多発肝転移と診断されました。
Aさんも夫と一緒にかわべクリニックで診て欲しい。
元々、Aさんにはかかりつけ医院には定期受診されていたのですが、その先生は往診での対応は困難との返答があったので、O病院からの紹介状を待ってくださいとAさんが言われています」とのこと。
私は診療情報提供書を待つこととしました。
その翌日、娘様より
「母が39℃の熱があります・・・」と悲痛な叫び。
診療情報提供書は届かなかったものの緊急事態だったため、感染予防対策を行い、緊急往診の運びとなりました。
症状緩和の処置、インフルエンザ抗原検査陰性、COVID-19抗原検査陰性。
ここで大切なACPを行います。
見たことがある方も多いと思いますが、
いわゆる 病の軌跡 の中の がんの軌跡 です。
まぁまぁとは、ひと月経っても大きな変化がなければ、月の単位。
だんだんとは、1週間前と様子が違えば、週単位。
というようなグラフになります。
かわべクリニックでは、だんだんからどんどんの時期・タイミングで関わることが多いんです。
この軌跡を踏まえてみると…
まず、予後予測をするために、ここ最近の詳細を確認。
2カ月前から微熱経過であったことや腰背部痛などの諸症状の出現はあったとのこと。
PS(全身状態)などを含め予後1ヶ月未満と推測。
そして、ようやく診療情報提供書が手元に届きました。
だんだんからどんどんの時期のACPを行います。
Aさん:夫のそばにいたい。けど、痛みとかどうなるのかな。苦しむのかな。娘に迷惑をかけるなら入院したほうがよいのかな。でも入院すると家族に会えなくなる。
夫:何にもしてあげられないけれど、お願いだからそばにいて欲しい(涙)
娘さん:今は母のために出来ることはしてあげたい。孫を連れてしばらく泊まり込みで過ごすことにします。コロナでなければ、入院でもと思うかもしれないが、この状況なので、最期まで家で過ごさせてあげたい。
突然のがんの宣告で動揺もありましたが、動けない難病の夫とベッドを並べ、最後まで自宅で過ごす事を選択。
その選択を悲しみつつも一緒に過ごせることを喜ばれ涙する夫。
そして、両親を懸命に支える娘さん。
ベッドの導入、ヘルパーの介入など、環境調整はすぐさまケアマネージャーが設定。
そして、癌の診断から21日後、安らかに永眠されました。
私が伝えたいこと
いつでも どこでも 誰とでも
もしもの時を話し合える ACP
ご清聴ありがとうございました。
改めて、伝えたかったことは、「対話により、その時の気持ちを聴き、実現に向け地域で関わる」ということ。
クリニックだけではなし得ません。
東大阪プロジェクト
出会うことで人が動き出し、ともに未来を変える
~穏やかなエンディングをみんなで~
今後も研修会を定期的に行ってまいります。
ぜひ、ご参加ください。
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