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【看取りの報告書】AZさまのこと

クリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。

今までかわべクリニックがお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出と共にご紹介していきたいと思います。

AZさまのこと
~終活します!~私たちに出来ることとは?

いつもお世話になっております。AZさまについてご報告させていただきます。

初回訪問を終えた時点で室内でのADL低下を認め、独居生活はギリギリの状態でした。
早急に介護用ベッドを導入するなどして環境調整を行い、前胸部の処置目的で、訪問看護師に毎日の介入を依頼しました。
10日後の外来受診後、明らかに病状の悪化を認めたため、緩和医療に切り替え、ステロイドを開始しました。

しばらくは食欲も改善し、喜んでおられたのですが、5日程度で更なるPSの低下。
AZさまに希望を尋ねたところ、「私もそろそろ、終活の時期に来たのね。出来ることなら、この家で最期を迎えたい。可能かしら?」とおっしゃいました。
そして、他県に住んでいる娘さまに、日に日に病状が進行していることをご説明。
娘さまから、「母は、元々看護師として病院で働き、若くに夫と娘を病院で亡くしたため、自分の最期は自宅で逝きたいという強い気持ちがあります。
その希望を叶えるために、仕事の調整を行い、連休は一緒に過ごすつもりです」と心強いお言葉がありました。

またお孫さまもお見舞いに来られるなど、意識レベルが低下していく中で、穏やかな時間を過ごされました。

そして、退院から3週間後、娘さまに見守られる中、安らかに永眠されました。
この度は、ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。

[ケアを振り返って]
終活を行う中で、最期をどこで迎えるかというのは、人生の最終段階を迎えた本人にとっても、ご本人を支え、看取ることとなるご家族にとっても大切な選択です。
以前の調査では「最期は自宅で」を望む方が約6割にのぼり、コロナ禍となりさらに増えています。
*終活とは、「人生の終わりのための活動」の略。人が自らの死を意識して、人生の最期を迎えるための様々な準備や、そこに向けた人生の総括を意味する言葉。

人生の最期を迎える場所は、時代によって大きく変わります。
厚生労働省が発表している「人口動態統計」によると、1951年には自宅で8割以上の人が亡くなっていましたが、1976年になると、医療機関で死亡する人が上回り、その後、年々増加。
現在では8割近くが病院で亡くなっています。
こうした変化は、最後まで命を救おうと手を尽くす現代の医療システムによるものが大きい、と考えられます。
しかし、その現実とは裏腹に、最期を迎える場所として、住み慣れた「自宅」を理想とする人が多いという調査結果が、いくつも報告されています。

日本財団が2020年に実施した「人生の最期の迎え方に関する全国調査」では、看取られることを想定して回答した親世代(67~81才の男女558人)は、死期が迫っているとわかったとき、人生の最期を迎えたい場所を、「自宅」と答えた人が58.8%、「医療施設」と答えた人が33.9%でした。


出典:人生の最期の迎え方に関する全国調査結果
URL:https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2021/20210329-55543.html

また、親を看取ることを想定した子供世代(35~59才で、親あるいは義親の1人以上が67才以上で存命の男女)に、親の死期が迫っているとわかったときに、「人生の最期をどこで迎えさせてあげたいか」を聞いたところ、58.1%が「親自身の家」、24.5%が「医療施設」と回答。
親も子も、「最期は自宅で」と考えていることがわかりました。

つまり、親世代も自宅で過ごしたい、そして子供世代も親自身の家で過ごさせてあげたいと希望が一致しているのです。
しかし、実際の病院での看取り率は78.1%と高い現実があります。


出典:人生の最期の迎え方に関する全国調査結果
URL:https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2021/20210329-55543.html

この希望と現実の開きを考えてみたいと思います。
原因はいろいろとあるとは思いますが、AZさまのケースを例に、この開きを小さくすることで苦しみを少なくする、いや、無くすことができる。
つまり、希望を叶えることができるのではないでしょうか?
そのために、まずはAZさまの希望、将来の夢をキャッチすることから始まります。

AZさまは
「私もそろそろ終活をはじめていきたい。
だから、はじめに皆さんに『感謝』の意を伝えたい。
そして私はできる限り家で終わりたいという気持ちを伝えたい。
そのため、いろいろと迷惑をかけることになるけれど、穏やかに家で逝けたらなぁと思う。
早く逝きたいとは言わないけど、穏やかに過ごしたい。」

この希望を叶えるために大切なことは、
・私たち医療従事者(医師、看護師)が、その時々において、患者さまの残された時間、予後をしっかりと把握していること。
・少なくとも患者さまを支えるご家族さまに対して、今後の見通し、予後が限られていることを伝えること。
・ご家族さまに対しての説明では、病状の変化を月単位、週単位といった目安で伝えるなど、最大限の配慮を行うこと。

それでも伝えられたご家族さまは、ショックを受けられるかも知れません。
しかし、ある程度の時間軸を知ることで、家庭内の問題が解決され、仕事や財産などの社会的問題も整理されるなど、残された時間を有意義に過ごせる一助となるのではないでしょうか。

AZさまの娘さまの場合、病院の受診に付き添われた2日後に娘さまは、
「母の病状がどんどん悪くなるのは見てわかります。
この前までまだ元気だったのに、この前の受診ではタクシーに乗るのも大変で、病院では車椅子を使うほどでどうなるのかと不安になりました。
主治医の先生から1と指を立てられて、1年?あっ1ヶ月か…と思い直しました。
母は自分の夫も娘も病院で亡くしているので、病院は嫌なのだと思います。
院長先生からの話もあって、昨日主人と相談して、出来れば最後まで母に付添えたらと考えています。
私の仕事を息子に手伝わせるか、私がどうしても仕事の時には息子にここに来てもらうか…。
息子には現状を知らせようと思っています。
もし、私が面倒を見られない期間だけ、ヘルパーさんを利用することは可能ですか?」

今後の見通しをお伝えしておくことで、このように娘さまがご自身の思いを言葉にすることができます。
私たちは、ご本人、ご家族さまの想いをキャッチし、住み慣れた「自宅」で最期を迎えたいという希望を叶えるために、多職種が力を合わせ、ベクトル(方向性)を整え、得意分野で役割を果たし、支えねばなりません。

その目的はひとつ。
「目の前にいる患者さまの願いを叶えるため」です。
想いを同じくすることで、「患者さまの終活」のお手伝いができるのです。

今、私にできること。
そのひとつが、
・在宅医療とは何か
・在宅医療を支える人について
・ご家族が行うケアについて
・自然な最期の迎え方について
を多くの方に知っていただくこと。

知っていただくことが、考えてもらうきっかけになれば、と思います。

【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます

>>今週ご紹介する動画<<
【在宅診療】これで安心 3つのポイント 在宅医療

2022年7月14日市立東大阪医療センターにて講演
看護師 川邉綾香
医師 川邉正和

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