【看取りの報告書】Uさまのこと
クリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。
今までかわべクリニックがお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出と共にご紹介していきたいと思います。
今回ご紹介するのは、93歳でお亡くなりになったUさまです。
[看取りの報告書]
退院支援課 A様
いつもお世話になっております。Uさまについてご報告させていただきます。
初回訪問した際に、93歳のUさまから言われたことは、「100歳まで生きたい。妻をおいて逝く訳にはいかない、だから長生きしたい。今はなぜかしんどい。それをどうにかして欲しい」という訴えでした。
奥さまは重度の認知症があり、5分前のことも覚えておくことが出来ない程でした。
Uさまのご希望に沿って、苦しみを和らげるために、介入直後よりステロイドおよびナルサスを開始し、呼吸困難と倦怠感の緩和に努めたところ、ADLが改善しQOLの向上にも繋がりました。
しばらくは穏やかな時間を過ごせるようになりましたが、病気の進行と共に、呼吸困難が再び増強したため、クリニックスタッフ、訪問看護師、ケアマネ、ヘルパーと合同でカンファレンスを実施。
Uさま、そして認知症の奥さまにとって、最期をどこで過ごすことが良いのか、そのために私達ができることは何かを考え、日に何度も多職種が訪問して安否確認を行い、変化があればクリニックに連絡する事を周知徹底しました。
そして退院して約2か月半後、奥さま、訪問看護師さん、ヘルパーさんに見守られる中、永眠されました。
Uさまが息を引き取った時、奥さまは私たちに
「えっ?お父さん本当に息していないの?私全然気付かなかった。ホント?気付かなった?どうして?」と何度も言おっしゃっていました。
私たちはUさまが安らかな眠りについたことをご説明しましたが、5分後にはいつも通りの会話が始まり、何もなかったように奥さまは礼儀正しく私たちにご挨拶をされていました。
認知症のご家族を残して去ること、そして、残された家族を支えることについて深く考えることの出来た症例でした。
ご紹介ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。
[ケアを振り返って]
重度の認知症のため、長年介入しているヘルパーさん方にしか心を開かない奥さま。
穏やかな日常を過ごしていたかと思われたある日、Uさまの異変に気付き、隣人に声をかけました。
そして、隣人の方が救急車を要請し、救急搬送に同乗してくださり、緊急入院となりました。
ガンの末期であると診断されて入院すると、奥さまはUさまがいないことを理解できないため、不安になり徘徊してしまわれるように。
そのためにはUさまは、自宅で療養することが必須だったのです。
このような状況で在宅療養は可能なのか?とケアマネージャーさんから依頼があり、在宅訪問診療が開始となりました。
キーパーソンとなるヘルパーさんから、私たち医師、看護師、および訪問看護師がUさまと奥さまの仲間であることを説明していただき、介入が始まりました。
慣れていただくまでの間はヘルパーさんの援助の時間に合わせて入り、奥さまの警戒心を解くなどの工夫を行いました。
その後も、徐々に状態が悪化するUさまへのケアに困らないようにと、ヘルパーさんが奥さまの心のケア目的で、同じ時間に訪問。
チームとしてUさまに関わることになりました。
寝る時間が長くなっているUさまの横に、いつもいる奥さま。
ご夫婦は長年、ダブルベッドで必ず一緒に寝ていらっしゃいました。
ADLが低下する中でも、お二人が一緒に寝るために介護用ベッドを導入せず、マット交換もせず、ヘルパーさんの協力で可能な限り体位交換をすることにしました。
亡くなる前日も、ダブルベッドで二人で寝ていたUさまと奥さま。
最期まで、夫婦の生活がそこにはありました。
最期の時、奥さまはUさまの死をどのように受容していくのだろうと不安に思いましたが、次の日も同じように、奥さまの新しい日が始まりました。
夫がいない事への不安を、いつもそばでケアしてくださるヘルパーさんの支えによって乗り越えていることを知り、感謝しかありません。
※プライバシーに配慮し、お名前はアルファベットとさせていただきました。
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