【看取りの報告書】Jさまのこと
クリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。
今までかわべクリニックがお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出と共にご紹介していきたいと思います。
主治医から、「頸部大血管からの出血、腫瘍への気管への更なる浸潤による窒息などの急変の可能性がある」との説明を受けた娘さま。
事実かもしれないが、受け止めきれない…。それでも、家に連れて帰ってあげたい。
その願いが、Jさまの支えとなりました。
[看取りの報告書]
退院支援課 スタッフの皆様
1月に貴院よりご紹介いただきました、Jさまについてご報告させていただきます。
主治医から、「頸部大血管からの出血、腫瘍への気管への更なる浸潤による窒息などの急変の可能性がある」との説明を受け、不安の強かった娘さまでしたが、Jさまの願いをかなえるために、退院を決意なさいました。
猫5匹(もぐもぐ君15歳、なでしこちゃん13歳)に囲まれ、嬉しそうにされるJさまの顔を見て、「連れて帰ってよかった」という言葉からスタートした在宅療養。
家での生活では、テレビを見ている時間が長かったのですが、テレビの位置やJさまの好む姿勢の影響でカニューレが抜けそうになり、時には完全に抜けてしまい驚きのあまり娘様自身でカニューレを挿入される、などのハプニングもありました。
そのような中、皆で知恵を出し合い、療養環境の調整をしていきました。
2週に1度の外来通院では、待ち時間が短くなるように診察時間を調整いただき、ありがとうございました。
負担も最小限となり、Jさまも娘さまも喜ばれていました。
しかしながら、徐々に状態は悪化。
不安をみせる娘さまに対し、「家で過ごしたい」というJさまの強い意思表示に添えるよう、訪問診察回数を増やして苦痛の緩和をはかり、娘さまの不安の軽減に努めました。
そして、まだ桜の便りが届かぬ3月上旬に、二人の娘さまに見守られる中、安らかに永眠されました。
どんな時でも、愛猫たちはJさまのそばを離れることはありませんでした。
そんな猫たちの姿が、Jさまやご家族、そして私たちにとって、癒しとなりました。
急な外来予約変更など、迅速に対応いただき、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。
[ケアを振り返って]
残された時間を自宅で過ごしたいと希望される方は、60%を超えます。
しかしその一方で、現実に自宅で最期を過ごせる方は、約14%にしか過ぎません。
一体、なぜなのでしょうか?
その理由の一つとして、「自宅で何かあったらどうしよう」というご家族の不安があると思われます。
今回のように、病院から大出血や窒息など、「最悪の事態」についての説明がされることもあります。
私たち在宅医療のスタッフは、病院の主治医に対して、ご家族にきちんと説明していただけるよう、お願いしています。
しかしその結果、かえってご家族の不安が大きくなり、不安に押しつぶされそうになってしまうこともあります。
私たちにできることは、その不安の一部分を委ねてもらい、分け合うことです。
そして患者さまご本人の喜ぶ顔や穏やかな姿が、ご家族の不安を和らげてくれます。
ご家族も私たちも、その時々に皆がJさまのためにできることを考えました。
そして、Jさまの穏やかな表情を見ることで、「連れて帰ってよかった」と思うことができ、その思いが新たな覚悟となって、在宅医療を支えるご家族の気持ちを強くしてくれました。
もちろん、不安で心細くなることも、当然あります。
その変化を見極め、支えることが私たちの役割です。
そうしていつしか、ご家族は介護のプロになるのです。
ご家族が常にJさまを支えてくれていたことに、私たちは感謝するばかりでした。
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