【看取りの報告書】Iさまのこと
クリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。
今までかわべクリニックがお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出と共にご紹介していきたいと思います。
まだ40代後半で、私たち医療スタッフと同年代だったIさま。
Iさまが治療したい時期、そして、これからどう過ごしたいかを考える時期に、ご家族とともに寄り添った5か月間でした。
[看取りの報告書]
退院支援課 スタッフの皆様
昨年11月に貴院よりご紹介いただきました、Iさまについてご報告させていただきます。
当クリニックにご紹介された時点で、主治医より予後3カ月と告知済みだったIさま。
まだまだ生への意欲は高く、抗癌剤治療を受けられ日々副作用と闘いながら頑張っておられました。
1月にはIさまのお誕生日をお祝いし、その後も体調に合わせて、友人と温泉旅行や以前の職場の友人に会いに行くなど、残された時間を大切にして過ごされていました。
しかし、日ごとに疼痛、腹満増強、体力減退と諸症状が出現。
母親には迷惑をかけられないという思いのIさまは、A病院の緩和ケア科の見学にも行かれました。
そのような中、Iさまと同じ日に生まれたベンガル猫の蘭丸君と出会い、「運命を感じた!」と3月より飼うことになりました。
Iさまを一途に見つめる蘭丸君と、そんな蘭丸君を愛おしそうに撫でるIさま。
蘭丸君との関わりは、Iさまの苦痛を取り除いてくれる、なによりも大きな出来事となりました。
しかし病気は待ってくれず、1ヶ月後に吐血。
ご本人に意向を確認したところ、蘭丸君を見つめ、「もうしばらくここにいたい」とおっしゃいました。
そして4月の下旬、お母さまと弟さまに見守られる中、安らかに永眠されました。
お母さまは、今のIさまと同じ年でご主人をガンで失っておられます。
「息子もガンで同じように…」と悔しい思いも口にされていましたが、「息子の望む形で最期まで穏やかに逝けてよかった。闘病生活中いろいろあったけど、息子の本当の姿が見えたようで嬉しかった」とのお言葉をいただきました。
[ケアを振り返って]
ご依頼を受けたとき、Iさまが私たち医療スタッフと同年代という事もあり、どのように関わっていけばよいのか、と多少の気構えがありました。
しかし初めてお会いしたIさまは、「これからの自分と向き合えている」印象でした。
ただ、同居されているお母さまとの間に大きな溝があり、お二人は口をきかず、診察時はお母さまは扉の向こうで話を聞いているような状態でした。
まずは、主病院で抗癌剤治療を継続することができるように日々の体調管理を行ない、治療後は在宅で心身ともに副作用のケアに努める。
そして、治療がすべて終わった際には、心のケアのひとつとして、「これからどのように過ごしたいのか」のお手伝いさせていただきました。
Iさまは、友人との旅行を希望されました。
旅行中の緊急時に備えて、薬や旅行先で救急搬送となっても困らないように紹介状を作成し、無理なく楽しんでもらうようにサポートしました。
無事、旅行を楽しんで帰ってこられたIさまのお土産話は、私たちにとっては何よりも喜びでした。
そんなIさまでしたが、体力の低下がみられ、ご友人との旅行もできなくなりました。
しかしご友人から、新たなる支えをもらいました。
それが、愛猫・蘭丸君との出会いです。
しかし、お母さまは猫が大の苦手。
Iさまが亡くなったあと、猫のお世話はお母さまがしなくてはいけない…。
正直、私たちは「この時期に本当に猫を飼うの?」と思いました。
しかし、彼の支えとなるのであれば、思い直し、お母さまにご報告し、蘭丸君を迎えることとなりました。
蘭丸君を迎えてからのIさまの目は本当に穏やかで、その様子を眺めているお母さまも穏やかになりました。
お別れの日。
お母さまは「この子(息子)が残した蘭丸を、息子だと思って私が面倒みたいとおもいます。
それが、この子が私に伝えたいことだったかもしれないから」とおっしゃいました。
お母さまとIさまとの間にあった溝が何だったのか、私たちは具体的にお聞きすることができず、互いに話し合う場はもてませんでした。
しかし、言葉ではない何かを伝え合えたのではないかと感じました。
どのような状況においても、患者さまが考える「自分が今、どうしたいのか。そしてこれからどうしたいか」
私たちは、それを全力でサポートします。
そのためには、患者さまが「どうありたいか」を一緒に考えられる、そして支えられる医療者でありたいと思います。
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